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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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華の建国記念祭2


 災難に遭わずに済んだルーファスは、すっかり忘れていた食事をとることにした。
 たまたま目の前で空いたベンチにルーファスは腰掛けた。
 嗚呼、なんて青く澄み渡った空なんだろう。
 ファミリーやカップルや友達同士がとっても楽しそうに行き交ってる。
「(あれ……なんだかみんなキラキラ光って見える……)」
 ルーファスは熱くなった目頭を抑えながら、飲み物でも飲んで落ち着こうとした。
 マリアから購入した妖しげなドリンク。
 グビッと♪
「ブハーッ!!(まずっ!?)」
 ちょっと口に含んだ瞬間に、あまりの不味さに噴き出してしまった。
 例えるなら納豆の臭いがする赤身のドリップを飲んでる感じだ。さらにバニラエッセンスの香りまで混ざっていて、非常に不快なハーモニーを奏でている。
 ルーファスは残りのドリンクを花壇に流した。
「滋養強壮って言ってたし、きっと綺麗な花が咲くと思うよ、うんうん」
 ドボドボドボ〜。なんか液体がサラッとしてない。口当たりも最悪。
 口直しにルーファスはやけ食いをすることにした。
 美味しそうなカルボナーラをフォークで食べ……食べようと……食べようと?
「フォークもらうの忘れた!!」
 食器はセルフサービスだったのだ。
 が〜ん……。
「(今からもらいに行くのもなぁ)」
 でもこのままじゃ食べられない。
 だが、そこに果敢にも挑戦するルーファスだった。
 フォークを使わずにカップを傾けて啜る。
 ――果敢というか無精だった。
「(出て……こ、な、い)」
 トントントンっとカップの底を軽く叩いてみる。
 グチャ!
 勢いよくカルボナーラが顔に降ってきた。
「…………」
 ソースでべっとり。
 最悪だ。
 しかも拭くものがない。
 さらに最悪だ。
 このまま顔をべったりしたままじゃいられない。
「(服で拭こうかな)」
 ダジャレではなくて、やむを得ない手段だ。
 そんなとき、女神がルーファスに手を差し伸べた。
「ハンカチ貸しましょうか?」
 白いワンピースにつばの大きな丸い帽子。清らかな水のような肌をした可憐な少女。ブロンドの髪も輝き星のきらめきのようだ。
 思わずルーファスは言葉に詰まる。
「あ、ありがとうございます(綺麗なひとだなぁ)」
 レースハンカチを借りて顔を拭くと、ハンカチがべっとり、顔もまだ不快感が残っている。
 すっかり汚くなってしまったハンカチを返すに返せないルーファス。
「ごめん、すごい汚れちゃったので洗って返したいと思うんですけど?」
「それは愛の告白ですか?」
「は?」
「ごめんなさい、結婚とかまだ考えていません。まずはデートからはじめましょう」
「は?」
 アレ……なんかのこの少女、ちょっとアレな人?
 少女はガシッとルーファスと腕を組んだ。
「さあ、デートを楽しみましょう」
「……いや、その、ハンカチを返そうと……」
「ハンカチなんて洗えば済むことです、お気になさらず」
「だから洗って返すって言っただけなんですけど」
「そんなにハンカチを洗いたいのなら、そこの水飲み場で洗いましょう。ハンカチを洗い終わったらデートをしてくださいますよね?」
 ……エロゲフラグだとしてもヒドイ。
 詐欺か、結婚詐欺じゃないのかルーファス?
 大丈夫か? 騙されてないかルーファス? お金を貸したり印鑑押したら最後だぞ?
 しかしそこはルーファスクオリティ。
 押されると弱い。
 ハンカチを洗って、食べられなくなったカルボナーラを処分して、すっかりデートの準備万端。
「では参りましょう」
 少女はルーファスの腕に自分の腕をからめながらグイグイっと。
「いやいやいやいや、そうじゃなくて。私たちまだ会ったばかりで名前も知らないわけだし」
「名乗ればデートをしてくださるなら名乗りましょう。ハナコとでも呼んでください」
「珍しい名前だね」
「はい、適当に考えた偽名ですから」
「…………」
 偽名って。明らかに怪しいだろ。
 またグイグイっとハナコはルーファスの腕を引っ張った。
「では参りましょう」
「いやいやいや、まだ私が名乗ってないんですけど?」
「名乗るのはあなたの自由です。勝手に名乗ってもらって結構ですよ」
「(君のトークのほうが自由だよ)ルーファスです」
「まあ素敵な名前!」
「(勝手に名乗れって言ったたわりには反応が大きい)」
「では参りましょうか」
「いやいやいや」
 またも腕を引っ張られるルーファス。
 そんな二人の押し問答を木陰から見つめていた桃髪の少女。
「(ル、ルーちゃんが女のひとといるなんて……しかも美人!?)」
 そんな視線を浴びているとはつゆ知らず、ルーファスはついに負けてしまった。
 腕組みをして、まるでカップルのように歩き出すふたり。
 こんなスキャンダルをクラスメートに見られたら、絶対に明日学校で茶化されるに違いない。というか、ビビも転入済みなので、クラスメートだったりする。
 ハナコは楽しそうに屋台を眺めている。
「わたくし射的がしたいです。バンと音がなったり、火花が出るようなものが好きなもので」
「射的は今ちょっと危険だから行かない方が……(カーシャまだいるのかな?)」
「危険な香り……素敵ですよね。ぜひ行きましょう!」
「どうしてもって言うなら別の会場で見つけようよ?」
「どうしてもというほどでもないのでやめにします」
 自由人だ。
 とってもルーファスは疲れていた。お祭りを楽しんでいるわけでもないに、なんか別の疲労が色濃く顔に出ている。
「……はぁ」
 溜息をついたルーファスにハナコが、
「もしかしてわたくしといっしょではつまらないですか?」
「えっ、そ、そんなことないよ!」
「べつにあなたが楽しくないのは自由です。わたくしは勝手に楽しんでいますから」
 フリーダムだ。
 ぐぅ〜っとルーファスの腹の虫が鳴いた。
「そうだ、ごはん食べ損ねたんだった」
「あらあらお腹がお空きでいらっしゃるなら早く言ってくださればいいのに。ぜひあれに参加すればよろしいと思いますよ」
 ハナコが指差した先にある垂れ幕には、『マッハ大食い選手権』と書かれていた。
「そこまでお腹空いてるわけじゃないんだけどぉ〜」
 なんてルーファスが言ってもムダだった。
 ハナコにグイグイっと引っ張られて、受付で名前を強引に書かされて、いざ出場へ!
 華麗に鮮やかにテンポよく事が進んでしまった。
 もはやルーファスは流されるプロだ!
 予選会場に集まっている参加者たち。参加費は無料ということもあり、ただ飯食らいも多い。そこで歴代予選突破者以外や推薦枠の参加者以外は、クジ引きというルールが設けられていた。
 こういうときだけ、逆方向の運が良いルーファスはもちろん予選参加権を獲得。
 Cグループの予選に出場することになり、ルーファスはその会場へハナコと足を運んだ。
 予選会場にはいかにもな人から、そうでもない人、ルーファスの知り合いまでいた。
 なぜかいつも学校で突っかかってくるオル&ロス兄弟。いつも二人でいるのに、今日はどっちかわからないけど1人しかいなかった。
「おうルーファスじゃねえか。まさかおまえも参加するのか?」
「成り行きで……。ところで髪の毛どうしたの?」