魔導士ルーファス(1)
オル&ロスといえば、レッドとブルーがトレードマーク。その色でどっちがどっちだか区別できるのだが、今日は髪の毛が黒髪なのだ。
「なんだよ、黒くしちゃいけねえのかよ?」
「に、似合ってると思うよ!」
「似合ってるわけねーだろ!」
「(褒めたのに怒られた)ご、ごめん」
オル?ロス?はハナコに気づいたようだ。
「まさかおまえの彼女か?」
「ち、違うよ!」
ルーファスが慌てて否定した横でハナコはさらっと。
「はい、婚約者です」
衝撃の一言でオル?ロス?は凍り付いた。
その隙にルーファスは慌てながらハナコをその場から連れ去った。
オル?ロス?の姿が見えなくなったところで、どっちルーファスは溜息を吐いた。
「はぁ……寿命が縮まるかと思ったよ」
「そんなにわたくしと結婚できることがうれしいんですか?」
疲れすぎてつっこむ気力もなかった。
ルーファスがぐったりしていると、その肩をだれかがポンと叩いた。
「よっ、ルーファス!」
その知りすぎてる女性を見てルーファスが凍り付く。
ある意味、今は1番見られたくない相手だった。
一族の証である赤系の髪色――カーマイン色の髪をなびかせているリファリス。
「その娘[コ]ルーファスの彼女かい?」
家族に見られた!!
「はい、婚約者です」
ぐおーーーっ、勝手に答えてるしハナコ!
ルーファスはふたりの間に慌てて割って入った。
「違うから、今日知り合ったばかりのひとだから!」
否定はちゃんとしたのに、リファリスは真剣な眼差しでルーファスを見つめ、
「愛に時間なんて関係ないよ、大切なのは本当の自分の気持ちさ。彼女さん、出来の悪い弟を頼んだよ」
ハナコに顔を向けて肩をガシッとつかんだ。
「はい、お姉様」
なんかふたりの間で成立している。
もう否定するのもめんどうなのでルーファスは話題を変えることにした。
「ところでリファリス姉さんも出場するの?」
「タダ飯食えるって聞いたら参加しないわけにはいかないだろう? それに優勝賞品の中にビール1年分があるんだよ、1年分だよ、1年分?」
酒と聞けばなんでも飛びつくリファリスであった。
そんなこんなをしていると、スタッフが参加者を呼びに来た。
「みなさんCグループ予選が間もなくはじまります。会場に急いでください!」
いつに予選がはじまってしまう。
強引に参加させられてしまったが、ここまで来たらルーファスもやるしかない。
「……おなか痛くなってきた」
緊張するとお腹が痛くなるルーファス。はじめからルーファスが勝てるとはだれも思ってないだろうが、やる前からこれなんて情けない。
それでもルーファスは予選会場に立った。
応援席にはハナコの姿があった。
「ルーファスさんがんばって!」
と言われても、負ける気満々のルーファス。
立ち食い形式で、テーブルの上には山盛りのカステラ。口の中の水分が吸われる食べ物の代名詞と言っても過言ではない。大会運営者は確実に参加者の命を狙っているとしか思えない。
山盛りのカステラを見てルーファスの顔がやつれた。
会場にはなにやらアナウンスが流れていた。
《なお、緊急の場合にはドクターが待機しておりますのご安心ください》
そのドクターというのが、ルーファスの知り合いだったりした。
黒衣の医師――リューク国立病院の副院長ディーだった。
このディーという医師は、いつもルーファスのことをアレな目で見るアレなひとだったりする。今月入院したときもいろいろ大変だった。
「ほう、ルーファス君も出場するのか。ぜひ彼には倒れてもらいたいものだ」
これは絶対に倒れられなくなった!
ディーを見つけたせいで俄然ヤル気を失ったルーファス。
ここで追加のアナウンスが流れる。
《なお、飲み物はコーラのみとさせていただきます》
炭酸水……しかもコーラって、マジで参加者を殺す気だ。
そして、ついに予選Cグループの戦いが幕を開けた!
早くも試合放棄のルーファスはマイペースでカステラを食べ、コーラ飲み、ちょっと休憩!
次の瞬間、会場からルーファスに猛烈なブーイングが浴びせられた。
仕方がなくルーファスは大きく開けた口にカステラを放り込んだ。
「うっ!」
そして見事にのどに詰まらせた!
呼吸困難で青ざめていきながらルーファスは見た。
こっちを見て妖しく微笑んでいるディーの姿を……。
ここで倒れるわけにはいかない!!
ルーファスはコーラを一気に流し込んだ。
「うぇ……ゲホゲホッ……」
むせるむせるむせ返る。
どうにかカステラを流し込んで一命を取り留めた。
ルーファスが独り喜劇を演じているころ、ほかの参加者たちは激戦を繰り広げていた。
《おおっと、ゼッケン2番のクリスチャン・ローゼンクロイツ選手が現在1位!》
同じグループにローゼンクロイツも参加していたのだ。
そして、会場からはメガネっ子の追っかけが声援を贈っていた。
「ローゼンクロイツ様ぁ〜っ!(あぁ、カステラを目に留まらぬ早さで食べる姿も神々しいです)」
ローゼンクロイツのファンクラブも立ち上げているアインだった。
《2番手につけているのはゼッケン5番オル選手だ! ん、ここで審査員から物言いがつきました》
オル?がマッチョなお兄さんたちに連れて行かれる。と思ったら、隠れていたもうひとりのオル?も連れて行かれた。
《なんとオル選手、双子で交互に食べていたことが発覚して失格だーっ!》
やっぱり二人でオル&ロスなのだ。
《オル選手が失格になったことで2位つけたのはゼッケン3番リファリス・アルハザード選手。なんと今回の大会には姉弟で出場、しかし弟のゼッケン13番ルーファス・アルハザード選手は姉に大差を付けられてなんとビリだーっ!》
アクシデントに見舞われたルーファスがビリだった。
そして、実はこの予選にはアクシデントに見舞われてむせ返っているのがもうひとり。
桃髪を揺らして死にそうになっているのはビビだった。コッソリ出場したのだがまったく目立たず。
カステラ地獄に苦しむルーファス。
「(もう一生食べたくない)」
そんなルーファスにハナコからエールが贈られる。
「ルーファスさん、負けたらわたくしが結婚して慰めてあげます!」
応援というか求婚だった。
ここで負けたら結婚させられる!
ルーファスはカステラを口の中に詰めて詰めて詰める!
やわらかかったカステラが口の中で岩のように硬くなる!!
「うっ……ぐ……(苦しい……)」
ルーファスが白目を剥いた!
バタン!
ついにルーファスが倒れた。
さらに遠くの席では桃髪の少女も倒れていた。
妖しい副院長の眼がキラーンと輝く。
「ルーファス君、今私が診てあげよう!!」
救護テントからディーが飛び出した。
ビビスルー。
作品名:魔導士ルーファス(1) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)