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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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「帰ろうかなぁ」
 心が折れそうだった。
 でも――。
「(なんか食べてから帰ろう)」
 この少しでも、少しでもいいからお祭りを体験しようという哀しくなる気持ち。
 ルーファスファイト♪
 そんなわけでルーファスは並ばなそうな出店を見つけて、長方形のカップ入りカルボナーラを購入した。
 そして買ってから気づくのだ。
「(……いつものデリバリーと変わらない)」
 どこか落ち着いて食べるとこを探して歩き出す。
 そしてまたも気づくのだ。
「(飲み物いっしょに買うの忘れた)」
 飲み物を探していると、こんな声が聞こえてきた。
「ちょっとそこのマヌケそうな顔のお兄たん……と思ったらルーたん♪」
 今日は屋台のお姉さんをやっていた魔導ショップ鴉帽子のマリアだった。
 お店の雰囲気はいつもと変わらない。なんだか毒々しい。
「なんのお店?」
 ルーファスが尋ねるとマリアは、
「お祭り特製ドリンクのマリア☆すぺしゃるを販売してるのぉ。ルーたん1本買って♪」
 と満面の笑み。
 ちょうど飲み物が欲しかったところだ。
「じゃあ1本もらおうかな」
「AからXまで種類があるけどどれにしますかぁ?」
「(大過ぎじゃない?)ど、どれにしようか迷うなぁ」
「ルーたんにおすすめわぁ、滋養強壮によく効くAAA[トリプルエー]ドリンクですよぉ」
「(AからXまでじゃなかったの?)……じゃあ、それもらおうかな」
「200ラウルになりま〜す」
「高くない?」
 だいたい20ラウルくらいが缶ジュースの相場だ。
「キャンセル料は100ラウルになりま〜す♪」
 にっこりマリアちゃん。
「分割払いの場合は10日で1割りの利息がつきますよぉ」
 堂々とぼったくっている。
 ルーファスは100ラウルコインを出してしまった。なんだか押していけない印鑑を押すような光景だ。
「ルーたんありがとぉ♪(うふふっ、ちょろいわ)」
 心の声恐るべし。
 ルーファスほどいいカモもそんなにいないだろう。いつもルーファスは押しに弱いのだ。
 ちょっと落ち着いた場所で食べようと歩き出したルーファス。
 飲食系以外の屋台にもクジや金魚すくいやカメすくいなどなど、アクション系の屋台も並んでいる。
 射的の屋台で見慣れた魔女を見つけた。
「あ、カーシャ」
「おう、へっぽこではないか」
 カーシャは目の前でボルトアクション(装填作業)をしたライフルをルーファスに向けた。
「ああ、あっ、危ないじゃないか!?」
「安心しろ、射的銃の弾丸は非対人魔弾なっておる(撃たれれば多少は痛いが、ふふっ)」
 ちょっと撃ってみようと思っているかもしれないカーシャであった。
 今からカーシャがやろうとしている射的は、動く的の得点に応じて賞品がもらえるものだ。
「どの賞品が欲しいの?」
 ルーファスが尋ねた。
「特大ぬいぐるみに決まっておるだろう。もちろんそこにある3種類を全部コンプリートさせてもらうぞ」
 宣言するカーシャを見つめニヤリとした店のオヤジ。
「(そうはさせるか射的荒しのカーシャ。今年こそは1つも取らせんぞ!)」
 じつはカーシャ、お祭りの射的が大の得意で大好きで、やる店やる店でことごとく狙った賞品をゲットしていく有名人なのだ。ここの店のオヤジも毎年の建国記念祭で全敗中だ。
 カーシャが的に狙いをつけて引き金を引く瞬間、店のオヤジが隠し持っていたボタンを押した。
 的が10倍速で動き出した!
 すでにカーシャが引き金を引いたあとだった。
 バキューン!
 スカッ♪
 ――外れた。
 無表情でボトルアクションをしたカーシャはライフルを店のオヤジに向けた。
「……汚いぞ」
「突然的の早さを変えちゃいけないなんてルールはねぇよ」
 たしかにこーゆー店は店主がルールだ。
 カーシャが笑った。
「ふふふっ、いいだろう受けて立とうではないか(妾を起こらせるとタダではおかんぞ)」
 早さが変わったとはいえ、動きは規則的だ。同じ場所で照準を合わせ、的が向こうから来たタイミングで撃てばいい。
 再び銃を構えるカーシャ。
 店のオヤジは不敵な面構えでニヤリとしていた。
 カーシャが引き金を引いたと同時に、またもオヤジがボタンを押した。
 的が規則性を無視してトリッキーな動きをした!
 バキューン!
 スカッ♪
 ――またも外れた。
「ふふふっ……」
 カーシャの低い笑い声が響き渡った。
 そして、ボトルアクションをしたカーシャはライフルをルーファスに向けた!
「気が散るわへっぽこ!!」
「えっ!? 僕のせい!?」
「貴様がいると妾の運気が下がるのだ。さっさと消えんと撃つぞ?」
 目がマジだ。カーシャの脅しはいつもだいたいマジだ。
 怯えた表情でルーファスは後退りをした。
「撃つって……非対人なん……だよねぇ?」
「接射すれば血ぐらい出るぞ」
「それって……かなり痛いんじゃ?」
「痛いぞ、ふふっ」
 ここで店のオヤジが笑った。
「自分の腕を棚に上げてひとに当たるとはぁ、情けねえなぁカーシャさんよお?」
「な、にぃ〜! 妾に射撃の腕がないだと!?」
 完全に勝ち誇った顔をする店のオヤジ。毎年の敗北の恨みをついに果たせたのだ。
「決まった動きしかしねえ的にしか当たらねえようじゃ、実践じゃ役に立たねえぜ」
「これは実践じゃなくてゲームだろうが」
「これは俺とおまえさんのマジな勝負だ、お遊びなんかじゃねえよ!」
「言ったなオヤジ?」
「おう言ったぜ」
「サーベ大陸西部開拓時代、妾がなんと呼ばれておったか教えてやろう」
「西部開拓時代だと!?」
 ざっと500年以上前の話だ。
 カーシャが囁く。
「災難[カラミティ]・カーシャ」
 店のオヤジが噴き出して笑い出した。
「ぎゃははは、たまたま同じ名前だからってウソに決まってらぁ」
 周りにいた客やギャラリーも笑っている。
 カーシャは気にも留めなかった。
 悪寒を感じたルーファスは言われたとおり消えることにした。猛ダッシュで――。
「ギャァァァァァァァッ!!」
 ルーファスの耳に届いてきた男たちの悲鳴。
 今の時代もカーシャはカラミティだった。