ヒトケタの夏
せっちゃんの家に着くと、せっちゃんのお母さんが出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃい。みんなもう楽しんでるよ」
奥から子供たちが騒ぐ声が聞こえてきた。博之は思っていたより賑やかだったので、また心配になった。
(みんな、お誕生日会のことを知っていたのかな?)
部屋に入ると、トンツ君が立ってはしゃいでいた。でもその周りにいたのは、幼稚園の友達ではなくて、この家の近所の子たちだった。その真ん中から、せっちゃんが駆け寄ってきた。
「来てくれたの!?」
とても嬉しそうにそう言うと、博之の手に握られた紙包みを見た。博之は慌てて、
「これ・・これプレゼントだよ」
片手で差し出すと、せっちゃんは嬉しそうに受け取った。
「ヒロちゃん、さっき泣いてたんだよ。はははは」
トンツ君はそう言った。博之は女の子の前でそんなことを言われて、また泣きたくなってしまった。
「ほら、プレゼント開けてみたら?」
そこにお母さんが声をかけて、せっちゃんは頷いた後、貼ってあるテープを外し始めた。
「ボクのプレゼントはこれだよ!」
トンツ君が手に持って見せたのは、ビニール樹脂の鉛筆立てだった。
「この鉛筆立て、下に小さい引き出しが付いてるし、そこに鍵もかけられるんだ」
自慢げに話すトンツ君に、博之は、
(あれ? こんなのがプレゼントだったのか)
と拍子抜けした気分だった。
そのトンツ君に背中を向けて、せっちゃんは包装紙をめくり終えると、博之を見て満面の笑顔になった。
「ありがとう!」
そしてその陶器のお人形を胸に抱きしめたのだ。
博之はその天使のような笑顔に救われた。
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その日から、博之はせっちゃんのことを意識し始めた。いいや、まだ小っさい子供の頃の話なので、意識してたんじゃなく、単純にスキになってたんだ。幼稚園では、トンツ君もせっちゃんと遊ぶことが多かったけど、家に帰ると博之に分があった。それは、博之がよく遊ぶ公園が、せっちゃんの家の向こうにあって、トンツ君は自分の家の近所の公園でしか、遊んだことがなかったから、こっちの公園には来なかったのだ。
博之はわざとゆっくり歩いて、せっちゃん家の前を通った。たまにせっちゃんが表で遊んでいると、博之も一緒に遊んだ。その近所の子供たちも、お誕生日会で仲良くなっていたから。そして徐々にせっちゃんに慣れていくと、偶然会うという面倒なことはやめて、自分から積極的に、家まで誘いに行けるようになってきた。せっちゃんはいつも嬉しそうに出迎えてくれた。
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