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年末年始

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12:友人



 2日の朝。克樹は、いそいそと外出の支度をしていた。
 30日の夜に連絡を取った、友人の水野 鎮一(みずの しんいち)の家に訪問するためである。水野とは小中と同じ学校に通っていた、いわば竹馬の友というような間柄である。その後、高校からそれぞれ別の進路に進んだが仲は途切れることなく、お互い社会人になった今でも時折連絡を取り合っていた。
 今回も年末の夜、彼に連絡を取り久々に旧交を温めた。その際、直接会おうじゃないかという話になり、今日がその約束の日なのである。
 朝食もそこそこに家を出て、徒歩数分の水野の家へ向かう。なぜ午前中から呼び出したのだろう。克樹はそんな疑問を抱きつつ、小さいころ何度も通った道を歩いていく。
 やがて、「水野工務店」と書かれた小さな看板が前方に見えてくる。水野は、父が経営しているこの工務店を継ぐため、建築系の専門学校に進学し、今は別の会社で修行中の身なのである。
「お、もう来てたんか」
振り返ると、そこには最後に会ったときと全く変わらない水野がいた。
「昨晩、釣り行ったんだよ、海釣り。釣ったのを寿司屋で捌いてもらったから、一杯やろうぜ」
そう言って提げていた風呂敷包みを見せびらかす。そういえば、水野は学生のころから釣りが趣味だった。克樹が遊ぼうと思って水野宅を訪問しても、釣りに行ったという理由で遊べないことが多々あったことを思い出した。
 水野に連れられて玄関に入ると、これまた久しぶりに水野の母と顔を合わせる。
「明けましておめでとうございます。ご無沙汰しております。本年もよろしくお願いいたします」
「はい、明けましておめでとう。今年もよろしくね」
いろいろと順番がごっちゃになった感のある克樹の挨拶を、水野の母は朗らかな笑みで受け止める。
「克樹、部屋行こう。とっときの日本酒取ってくる」
部屋へと促す水野に、水野の母が冷静に声をかける。
「鎮ちゃん、お醤油忘れないように」
「あぁ、そうか」
 しばらくして、日本酒や醤油、薬味などを持ってきた水野と共に部屋に入り、水野はミニテーブルに風呂敷包みを置いて解く。新鮮みを感じさせる色艶の刺身が寿司桶に入って大量に現れる。
 克樹と水野は、猪口では面倒だとばかりに、コップに日本酒の瓶を傾けて乾杯する。
「それ、カワハギっつってうめえんだわ。」
「……うん、脂がのってて美味い」
「そっちは、スズメダイ」
「……これも、脂のってる」
「ま、スズメダイ自体は、外道魚つってハズレなんだけどな」
ジャンクフードに慣れきった克樹の舌は、せいぜい脂の有無しか判別できなかった。そのせいか、魚の話題は自然と終わりになる。座持ちのためだろうか、水野は昔よくやったTVゲームをやろうと持ちかけてきた。
「ゲームか……」
克樹は考え込んだ。双六のようにサイコロを振り、主に国内の目的地に誰が最初にゴールするかを競うというこのゲームで、昔水野と大げんかになったことがあるからだ。あの時のことは、克樹の脳内にしっかりと刻まれている。しかし、今は二人とも大人だ。もうあの頃のような大人気ない真似をすることはないだろうと思いたい。だが、不安材料もある。一つ、二人は飲酒しているということ。酒が入っている状態と若年の頃と、どちらがより判断力に劣るのかはわからないが、この状態であの手のゲームを行うのは大変危険な気がする。二つ目、最近会う機会が減っているという点。昔のように、同じ学校に通っていれば、けんかをしてもすぐ謝ることができるだろう。だが、今はそれこそ数年に一度会えるかどうかという間柄だ。大げさじゃなく、ここでけんかをしたら今生の別れになる可能性もある。このかけがえのない友人と、ゲームが理由でけんか別れなんてしたくない。最後に、克樹はそもそもこのゲームが苦手だ。どうせやるなら、某ゲーム会社のキャラクターが一堂に会する対戦格闘のようなあのゲームの方が、まだ水野に勝てる可能性があるのだ。
 克樹が脳内でそんなことを考え込んでいると、水野は突然思い出したかのように、
「そういや、昔このゲームでけんかしたっけな」
と呟く。克樹がうなずくと、
「やめとくか」
と水野は自らの提案を打ち消した。
「あんときゃ、倉田っちや欣ちゃんにも迷惑かけたしな」
水野の口から懐かしい名が飛び出してくる。そこから話は、いきおい当時の話題に移り変わっていった。お互い、積もる話もあったのだろう。それから長い間、二人は話に花を咲かせ続けた。そこには、ゲームなど必要あるはずもなかった。


作品名:年末年始 作家名:六色塔