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大文藝帝國
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いとこ

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 昔からずっと好きだったのは一人だけ。
 昔からずっと嫌いだったのも一人だけ。
 小さな子が私と同じ理由で泣いているのを見たことがあるけれど、アレは泣いてしまうほど憎いものなのだ。
 横恋慕することほど痛いものはない。泣いてしまうほど。狂ってしまうほど愛しい感情と憎い感情を同時に抱く苦痛を知っている人間がこの世にどれほどいるのだろうか。あの気持ちを知ってしまってまともに生きている人間は一体どれほど?
 だから花実があの人を連れてどこかに行ってしまうことも理解できるし、それで殺されてしまったことも理解できる。そう、分かってしまう。私だってそうしてしまいそうだったから。愛しい愛しいあの子を「隠して」しまおうかと何度考えたことか。こんなに苦しい想いを抱えるくらいならいっそあの子を壊して、私を殺めるように仕向けようかと、本気で考えたことすらあった。けれどそう思う度に私はあの子にそっと触れるのだ。何も知らない、私と同じように笑うけれど私とはまるで違う天使のようなあの子に。
 
 私の周りには変な人しかいないのは私がおかしいせい。
 自分達がどこかしらおかしいと知っていた私達のたった一つの約束は、私達の「おかしさ」のせいで起きてしまった事は皆でそれを解決すること。
 花実の問題は私と月実の問題でもあるということ。花実のせいで宴兄さんが壊れてしまったのなら、私達が花実の代わりをするのは当たり前のこと。私達は同じ顔をした家族だから。別に仲の良い姉妹だったわけではない。義務感の方が強かったようにすら思う。なんとなく、気付けば「そういうこと」になっていた。
 そう、だから死ぬことを分かっていて「花実」として私はあの人の下に行く。
 私の可愛い月実をほんの少しだけ守るため。
 私が好きで好きでたまらない、私のたった一人の妹を守るため。
 宴兄さん、私貴方のこと大嫌い。大嫌いって言う代わりに愛してるってたくさん言ってあげる。
 
「ねえ宴兄さん、私本当は知っているの」
作品名:いとこ 作家名:大文藝帝國