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フリーソウルズ2

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Scene.10
ファーストインパクト

(ナレーション)
「日々膨大な数の動画がYouTubeにアップされる。個人の趣味から企業の広告、ライブ動画などジャンルは様々、百花繚乱、クオリティや収録時間も千差万別である。そんな中、ひとつの動画がYouTubeにアップされた」

(タイトル)
 ”ゼーレ_ファーストインパクト”

白壁の小さなスタジオ内。
背景は60inch程の黒縁のディスプレイ以外目立って形あるものはない。
鼻にかかる張りのある声で語り始めるユアト。
紺色のニットキャップを浅く被りサイズの大きい黒縁サングラスを掛けているユア
ト。仕立ての良い白いシャツをラフに着こなしているユアト。

ユアト  「ゼーレが分かれば未来がわかる。ゼーレが見えれば世界が変わる。ゼーレはドイツ語で”魂”という意味なんですけど、ここでいうゼーレは少し意味が違う。
いや、だいぶ違うかな。それでは”ゼーレ_ファーストインパクト”始めます。はじめまして。僕、ユーチューバーのユアトです。 ゼーレというのは1984年にオーストリアの理論物理学者オリベール・アシュロフによって提唱されました」

大型モニターに東欧系の男性のモノクロ写真がアップされる。

ユアト  「生命というものは誕生と死を繰り返しながら進化していきます。その中で必然的に発生した知性。その中核をなす自我意識もまた進化します。
自我意識はどこへ向かって進化するのか。人類の夢のひとつである不老不死もまたそのゴールです。残念ながら肉体は必ずいつか朽ち果てます。肉体は朽ちると知りつつも、なお永遠の生命を求め続ける人類。
現代社会において、不死のひとつの手段として生存中に自分の脳のコピーを作り、アンドロイドの頭脳に移殖するという試みがなされています。ですが、脳のコピーって何? 脳内データをデジタル化し,コンピュータメモリに閉じこめたもの?
ではメモリに閉じ込められたデジタル自我意識がさらに進化し、究極の形態まで進化を遂げればどうなるのか?その究極の形態まで進化した自我意識こそがゼーレの正体なのだと、アシュロフ博士は説いています。
どこの世界の話でしょうか。SFですよね。というわけで当時ゼーレという学説は科学界から全否定されました。いわゆる、総スカン。それがきっかけでアシュロフ博士は、社会との交流を一切絶ちました。
晩年は孤独な生活を送り、4年前に病気で亡くなりました。博士は大学や研究所に籍を置かず、独自で研究されるタイプだったため、博士の研究成果や研究論文はそのほとんどが陽の目を見ることはありませんでした。
アシュロフ博士唯一の著書である”超存在論”は、発行部数も少なく古書店で探すのも困難。当然のことながらネットで調べても出てきません。
今ご覧いただいているこの動画のタイトルは、ゼーレ_ファーストインパクト。私ユアトは、アシュロフ博士の研究なさってきたことを支持する者です。博士が提唱した”ゼーレ”。それはたしかに地球上に存在するという立場です。
ただそれを、科学的に再現性をもって証明することはできません。その意味では、幽霊とかUFOに似ています。”信じるか信じないかはあなた次第です”。あれと同じ類です。あーつまんね、興味ないわという人はウインドウを閉じていただいて結構。
ここまで視聴していただいただけで感謝です。私ユアトの話に少しでも、もしくは大いに興味あるという人は、今しばらくおつき合いください」

ピンマイクを手で覆いながらペットボトルの水をひと口含むユアト。
モニターに簡略化された人体のイラストが2つ横並びで表示される。

ユアト  「ゼーレは、というかゼーレ的な存在は、ずっと昔紀元前から近世までしきりに語られてきました。霊魂といわれたり、霊能力と見られたり、第三の目と表されることもありました。
エスとの対話のエスも、実はゼーレではないか、と私は考えてます。そういった文脈の中で、ゼーレを持つ人のことをチェザルモ”と表記される文献がいくつかあり、アシュロフ博士も著書の中で使用されてますので、このプログラムでもゼーレを持つ人のことをチェザルモと呼びます」

まったく同じように描かれたふたつのイラストを指さすユアト。

ユアト  「このふたつの人体A君とB君のどちらか一方がチェザルモです。わかりますか? 見分けがつきますか?つかないでしょう。拡大してみます」

ふたつの人体の頭部が拡大されアップになる。
B君の頭部に極小の赤い点が表れる。

ユアト  「おや、B君の頭に赤い点がありますね。さらに拡大してみましょう」

B君頭部の赤い点がさらに拡大されると当りという文字が表れる。

ユアト  「正解はB君でした。B君がチェザルモでした。正解した方に拍手!」

ふたつ並んだはじめの人体イラストに戻る。

ユアト  「A君もB君も見た目は変わりませんB君の頭につけた赤い点はもちろん説明用です。わかりますよね。実際にはゼーレは赤くもありませんし、人の目には見えるものでもありません。
どれだけ拡大しても。つまりゼーレを持つ人チェザルモと、そうでない人とはまったく見分けがつかない。私がこのお遊びで伝えたかったことは、そういうことです」

モニターが消える。
全面真っ暗な画面になる、


作品名:フリーソウルズ2 作家名:JAY-TA