フリーソウルズ2
Scene.51
佐賀セッター
管轄内で起きた猛獣による悲惨な事件に心を痛めている佐賀。
現実には獣より人間が起こす強盗や傷害事件に忙殺される日々の佐賀。
事務仕事を夜通し続け家族の待つ自宅に帰るため始発の電車に乗る佐賀。
閑静な住宅街の真ん中に位置する最寄り駅に降り立つ佐賀。
夜が明けきらぬ早朝とあって駅周辺の人影はない。
電柱や建物の上で甲高い鳴き声を発する数羽のカラス。
自宅に向かう舗道を歩く佐賀。
住宅街の奥から悲鳴が聞こえてくる。
曲がり角の向こうから何かがやってくる気配に身構える佐賀。
シャラシャラと地面がこすれるような音が近づいてくる。
スリムな猟犬が姿を現す。
首輪から伸びたチェーンロープを引きずる猟犬。
佐賀に向かって走ってくる猟犬。
猟犬は全身を灰色の毛に覆われているが前面にだけ黒いブチが少しある。
猟犬は速足で佐賀の横を通り過ぎる。
前を通り過ぎる瞬間、驚愕する佐賀。
犬の口から血が滴り落ちている。
黒いブチに見えたのは血糊である。
犬の眼は狂気を孕んでいる。
住宅の角から慌てた様子で犬の名前を呼びながら飼い主が走ってくる。
肩で息をする飼い主。
飼い主の上着袖は破れ指先から血が滴る。
佐賀 「(飼い主を呼びとめて)何があったんです?」
飼い主 「うちの犬が・・・うちの犬が・・・」
佐賀 「落ち着いてください」
飼い主 「救急車、救急車お願いします」
佐賀 「わかりました。私は警察です。何があったか・・・」
飼い主 「散歩中に急に暴れだして・・・。見守り隊の宇野さんが噛まれました。かなりの出血です」
ガラケーを開いて警察と消防に通報する佐賀。
児童登下校ボランティアの老人は直ちに病院に運ばれたが大量失血により危篤状態。
老人を襲った猟犬は総動員された警察官にネットガンで捕らえられその場で薬殺。
所轄の警察署に引き継いだ佐賀。
自宅に戻り家族の無事を確認した佐賀。
スマホを読む佐賀の妻。
佐事件の概要を伝えるスマホのエリアメール。
起床する佐賀の子ども。
庭の犬小屋で飼っていたミニチュアダックスも両手で抱いて室内に入れる佐賀の妻。
家族の無事に安心する佐賀。
冷めた朝食をレンジで温める佐賀。
シャワーを浴びる佐賀。
ベッドの倒れこみ泥のように眠りにつく佐賀。
佐賀が住まう地区以外でも飼い犬が人を襲った事件が都内荒川区練馬区、埼玉県朝
霞市など各地で同様の事件が起きたことをテレビのニュース番組が伝える。
ダルメシアン、ポメラニアン、コーギー、人を襲った犬種は様々。
5件目、6件目と事件報告をテレビで知る佐賀。
イノシシ暴走事件同様、凶暴化の原因は特定できないと伝えるキャスター。
SNS上では人を死の淵に追いやった動物にさえ擁護する声があがる。
十命尊重派との間で議論が沸騰する。
多くの飼い主は、自分の飼い犬は決して凶暴化しないと高をくくっている。
もっとも飼い主の意図に反して人を死に至らしめた犬は保健所で安楽な死が待っている。
佐賀の妻 「うちのピッピ大丈夫かしら」
部屋の隅でうずくまるミニチュアダックスを心細げに見つめる佐賀の妻。
佐賀 「あの子は心配ない。でも念のため夜は俺の部屋で寝かせよう」
グラスにビールを注ぎタバコをくゆらせる佐賀。
近所でかわいいと評判だった品川区の小型ワニが豹変したと別のニュース番組が報じる。
散歩中のワニが飼い主の制止を振り切りよその幼稚園児の足を噛みちぎったと伝える。
早朝の玄関先で新聞の朝刊を握りしめる佐賀。
佐賀 「いったいどうなっているんだ!」
腹立たしい思いのまま明け方の空を見あげる佐賀。
軒先の電柱にカラスが一羽とまっている。
電柱のてっぺんを見あげる佐賀。
グワーッと低く啼いて朝焼けの空に消えていくカラス。