フリーソウルズ2
Scene.35
2階店内
繁華街ファストフード店内
恭一 「真凛さん、真凛さん!」
真凛の肩をゆする恭一。
真凛は組んだ腕にうずめた顔をあげる。
真凛 「あ、キョーイチ」
真凛の頬に涙の流れた痕がある。
恭一 「真凛さん、泣いてたんですか?」
真凛 「泣いてねえよ」
恭一 「涙の痕が・・・」
真凛 「バカ、泣くわけないだろ。ちょっと昔のこと想いだしてたんだ」
恭一 「ならいいですけど・・・」
真凛の対面して座る恭一。
真凛 「でキョーイチ。彼女は見つかったのか?」
恭一 「はい、見つかりました」
真凛 「やっぱりな。俺の勘すごいだろ」
恭一 「や、それ多分、レオさんに訊いたんでしょ?」
真凛 「八王子とか吉祥寺は丘サーファーのたまり場なんだよ」
恭一 「ついていけません、丘サーファーとか・・・」
真凛 「んなことより、どこの店だ、童門香織がいるのは?」
恭一 「あそこに見える雑居ビルの4階」
ファストフード店のガラス越しに見えるビル群のひとつを指さす恭一。
恭一 「ガールズバーです」
真凛 「行くぞ、その店!」
テーブルを片付け始める真凛。
恭一 「待って!」
真凛 「なんだ?」
恭一 「未成年は入れない店です」
真凛 「お前、老けて見えるから入れるだろ」
恭一 「身分証提示求められました」
真凛 「ジュースだけでもダメなのか?」
恭一 「はい。入り口で止められました」
真凛 「きっちりしてるな(あげかけた腰をおろす)」
恭一 「コンプライアンス」
真凛 「じゃあ、ドンキで変装道具買ってこい。つけ髭とか」
恭一 「ばれますって」
真凛 「ちぇ、わかってたら身分証偽造してきたのに」
恭一 「偽造とか、犯罪ですよ」
真凛 「昔は高校生でもざらに・・・」
恭一 「時代が違うんです」
真凛 「時代か・・・本当によくなってるのか」
恭一 「真凛さん、もう帰りましょう」
真凛 「なんで帰るんだ?」
恭一 「童門香織が働いてる店がわかったから、もういいでしょう。いかがわしいガールズバー」
真凛 「いかがわしいかどうかわからないだろ」
恭一 「帰りましょうよ。もう終電がなくなる」
真凛 「タクシーで送ってくよ」
椅子の背もたれに背中をつけて中空を仰ぐ恭一。
じりじりと焦っている様子の真凛。
恭一 「どうするんですか、真凛さん?」
真凛 「どうするって・・・童門香織に会う」
恭一 「待つんですか?」
真凛 「待つ」
恭一 「いつ彼女のバイトが終わるかわからない」
真凛 「待つ、ここで」
窓にもたれるように雑居ビル群を眺める真凛。
店内を見廻しす恭一。
ハンバーガーを頬張る独身サラリーマン。
談笑する女子校生たち。
恭一 「(立ちあがって)僕、帰ります」
真凛 「待てよ、キョーイチ(恭一のズボンを掴む)」
真凛の不安げな表情を見逃さない恭一。
恭一 「真凛さんもわかってるはずだ。童門香織は晶子さんじゃない」
真凛 「わかってる」
恭一 「わかってない。童門香織は学校にも来ない。目的もない。ただ男のために夜の店で働いている、クズな女」
真凛 「彼女をそんな風に言うな」
恭一 「どうしてですか、どうしてそこまで・・・」
真凛 「恭一こそわかってない」
恭一 「何がですか。言わしてもらいますけど、童門香織は女性には興味ない」
真凛 「(やや口ごもって)・・・なことはどうでもいい。俺はもう・・・惚れたんだよ、童門香織に・・・(開き直る)」
恭一 「傷つくだけですよ」
真凛 「それが人を好きになるってことだろ」
恭一 「でも怖いんでしょ。童門香織に嫌われることが」
真凛 「・・・それも含めて、恋なんだよ」
恭一 「恋とかよくわからない。ただ見てられないんです。真凛さんが傷つくのを・・・(口をへの字に結ぶ)」
恭一の目から涙が溢れる。
恭一 「傷ついてほしくない・・・。真凛さんのことが・・・好きだから・・・」
こぼれる涙を隠すため椅子に座って顔を隠す恭一。
サラリーマンがキーボートを叩く手を止める。
談笑する女子校生は会話を中断して聞き耳をたてる。
真凛 「おい、キョーイチ・・・こっちに来い!」
呼び寄せた恭一の頭を軽く平手で叩く真凛。
そして周囲に愛想笑いを振りまく真凛。
恭一を隣に座らせると恭一の震える肩を抱く真凛。
恭一は涙を拭って気持ちを落ち着けて言った。
恭一 「(涙を拭って)真凛さん、ごめんない。言い過ぎました」
真凛 「いいよ」
恭一 「ひどいこと言いました」
真凛 「気にするな」
恭一 「真凛さん・・・」
真凛 「俺も大人げなかった・・・」
新しいドリンクと揚げたてのフライドポテトを持ってテーブルに戻ってくる恭一。
その間ずっと窓の外をぼんやり眺めている真凛。
真凛 「ありがとう・・・(軽く恭一の手に触れる)」
恭一 「わかってます」
前屈みになっていた姿勢を戻し、真凛は諭すような穏やかな口調で恭一に言った。
真凛 「(前屈みになっていた姿勢を戻し穏やかな口調で)なぁ、キョーイチ。初めは晶子だった。でも今は、童門香織なんだ」
真凛が話し始めた間甲斐甲斐しくドリンクにストローを挿して真凛に差しだす恭一。
恭一 「晶子さんのことは・・・」
真凛 「彼女のことは、絶対忘れない。だから、初めて香織を見たとき、あまりに晶子に似てたから記憶がいっきに蘇った。クラブパリセーズ」
恭一 「おいくつだったんですか、晶子さん」
真凛 「俺が知ってる晶子は21歳。きれいだった。ほんとにきれいだった。顔も歌も」
アイスコーヒーをひと口飲む真凛。
真凛 「2年前、ひめに会ってレオを知って、調べる決心がついた。晶子のその後のこと」
恭一 「25歳でしたっけ」
真凛 「ああ、25歳。25歳でこの世を去っていた。薬物の過剰摂取だって。あの連中に殺されたんだ。彼女は4年間でボロボロにされたんだ、ヤクザの連中に」
恭一 「悔しいっすね」
真凛 「ああ」
恭一 「でも真凛さんが撃たれてなかったら、晶子さんが死んでいたかも」
真凛 「かもしれない。自問自答さ。あの日俺は死ぬ運命だったのか。その死に意味はあったのか。もし俺が死んでなかったら晶子は今でも歌い続けていただろうか。
答えのない自問自答さ。そんなとき香織と会った。この女と話をすれば答えが見つかるかもしれない。そう思った。でも時間が経つにつれ、ただただ彼女にもう一度会いたいという思いが強くなっていた」
恭一 「それは晶子さんにでしょ」