フリーソウルズ2
Scene.33
シャインマスカット
表参道カフェ
シャインマスカットのタルトと深煎りコーヒーをトレイに乗せて運んでくる店員。
それらをカモたちがいるテーブルの上に置く店員。
テーブル席には佐伯多香子、カモ、リョウ、ゆっちん。
多香子 「まあ、美味しそう。いいんですか?」
カモ 「どうぞ、どうぞ」
多香子 「カモさんたちは召し上がらないのですか?」
カモたちの前にはハウスコーヒーが並んでいる。
カモ 「おかまいなく、どうぞ」
リョウ 「甘いものは苦手で・・・」
ゆっちん 「僕たちはさっき食べてきたんです、特盛・・・」
愛想笑いを浮かべてブラウンシュガーを一粒コーヒーカップに沈める多香子。
リョウとゆっちんに目配せするカモ。
すっと立ち上がって深々と頭を下げるリョウ、ゆっちん、カモ。
カモ 「すみません! 多香子さん!」
多香子 「えっ?(コーヒーをかき混ぜる手を止める)」
カモ 「あれから変な電話や手紙、来てませんか?」
多香子 「はい、来てません」
リョウ 「不審な人物につきまとわれたりとかは?」
多香子 「そういうこともありません」
カモ 「そうですか・・・」
ゆっちん 「よかった・・・(カモたち着席する)」
多香子 「兄の件で、ですか?」
カモ 「はい、電話では手短にしか話せませんでしたが、ユアトっていう変わった野郎がYouTubeに動画をあげてまして」
リョウ 「多香子さんは見ましたか?」
多香子 「はい、見ました。全部」
カモ 「あの動画があがったのが、多香子さんから相談があってSDカードを分析して間もなくのタイミングでした。だからもしかしてたお兄さんの大切な情報が、僕らから漏れたんじゃないかと・・・」
多香子 「ファーストインパクト、セカンドインパクト全部見ましたが、あれはアシュロフ博士の本をなぞってるだけじゃないかしら。兄の話も実験の話も出てきませんし」
ゆっちん 「そう思って、入手しました。超存在論」
トートバッグの中から千ページの洋書をテーブルの上に置くゆっちん。
多香子 「まぁ、これ全部お読みになったんですか?」
その本を手にとろうとしたが片手で持ちあげられない多香子。
ゆっちん 「いちおう第二外国語はドイツ語なんですが、すみません全部読めてません。テキストに起こして翻訳機にかけて斜め読みしました」
カモ 「でもそこでひとつわかったことがあるんだよな」
ゆっちん 「うん」
多香子 「何でしょう? わかったことって?」
カモ 「セカンドインパクトでユアトは、ゼーレには5つのステージがあって、それぞれ名前がついてると言ってましたよえね。モルガ、ヘブロ、ギルスとかなんとか。その記述がこの本にはないんです」
ゆっちん 「何度も検索で調べたし、ドイツ語専攻してる友達に手分けして調べてもらったんで、間違いありません」
多香子 「じゃあ、あれはユアトさんの創作だったの?」
リョウ 「いいえ、創作ではありません」
多香子 「じゃあアシュロフ博士から直接聞いたのかも」
カモ 「それも考えたんですが、博士は5年前に亡くなっておられるし、晩年は外部との交流を絶っていたという話だから・・・」
ゆっちん 「ユアトがアシュロフ博士から直接聞いたとは考えにくい」
多香子 「じゃあ、いったいどこから?」
リョウ 「あのへんてこな古代シュメールチックな名前は一般の人には思いつかない」
カモ 「きっとアシュロフ博士の研究成果だろうと・・・」
ゆっちん 「で、調べ直しました」
多香子 「あったんですか?」
ゆっちん 「ありました」
多香子 「どこに?」
ゆっちん 「お兄さんがアシュロフ博士から頂いたという、膨大な資料の中に」
カモ 「つまり今、多香子さんが首から下げておられるペンダントの中に」
多香子 「このSDカードの中に、ですか・・・?」
ゆっちん 「はい」
カモ 「だから、すみません、と」
リョウ 「僕らが情報漏洩源かもしれない、と」
多香子 「まさか・・・(唇が一瞬引きつる)」
ゆっちん 「そのSDカードの中には、天根ラボの実験データも入っています」
カモ 「決して人の目には触れさせてはいけないデータが」
多香子 「あの皆さんは、どういう実験が行われたのかご存じなのですか?」
口を閉ざしてしまうカモたち。
冷めたコーヒーをすすって口をひらくゆっちん。
ゆっちん「別ルートで、ユアトがアシュロフ博士の資料を入手したのかもしれないし・・・」
カモ 「(ゆっちんの言葉を喰い気味に)3本の動画で名前が出てこなかったから、実験のことは知らないかもしれない」
ゆっちん「(次の動画で公開するかもしれないし・・・」
「おい、ゆっちん!」
口が滑ったと口を手で押さえるゆっちん。
カモ 「真実はユアトにしかわからない。だから思い切って今、ユアトにアポ取っています」
リョウ 「いろんなチャンネルを使って、会いたい、と」
カモ 「返事がくるかどうか、わかりませんが」
ゆっちん 「ダメもとで」
リョウ 「悪い奴じゃなさそうだし」
ユアトの容姿についてあれこれ言っているとゆっちんのスマホが鳴動する。
メールを開いて椅子から落ちるほど驚愕するゆっちん。
ゆっちん 「・・・来たよ。あいつから・・・」
カモ 「ユアトから?」
ゆっちん 「うん・・・」
リョウ 「うそ、マジか」
カモ 「なんて、なんて」
メールの文面をカモとリョウに見せるゆっちん。
(メール文面)
”超科学研究会の皆さん、元気?
よく僕のメアドがわかったね
会ってもいいよ
ただし条件がある・・・”