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フリーソウルズ2

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Scene.8
佐伯多香子

灌北大学 超科学研究会部室
ボックスと呼ばれる空調設備のない3畳ほどの小部屋。
部長のカモは灌北大学3年生。
リョウ、ゆっちん、レン3人の2年生部員。
1年生の新入部員が入らず部員数は先細り。
カモは部活消滅の危機を感じているが2年生3人に危機感はない。

カモ   「で、今年は何をやるか、皆考えてきてくれたんだろうな」
レン   「(けだるい声)ええーと、去年は何やったんでしたっけ?」
カモ   「去年はアレだ。パワースポットに行って」
レン   「あ、そうでした(思いだして付け加える)。ご神木に4人で抱きついてる写真、あれ大不評でしたね」
カモ   「パワーをもらってることが伝わらなかった」
リョウ  「おととしは(ファイルを見ながら)心霊写真を科学する。オーブの撮影に挑戦しよう。その前はUMA目撃情報の真相。あと巨石遺構の謎とか、テレポーテイション。いろいろやってきたんだな、わが超科研」
カモ   「学長賞をもらった年もある」
リョウ  「真面目にやってたんだなぁ・・・」
カモ   「20年の歴史は重い」
リョウ  「よく続いてるよ」
カモ   「記念の20年目だ。それに相応しい企画がいい」
ゆっちん 「バズるやつやな」
カモ   「そうだ。で、皆の意見は?」

カモの問いかけに急に黙りこむ2年生3人。
リョウからファイルを受け取るゆっちん。

ゆっちん 「もうネタ切れでやることないやん」
リョウ  「面白いことはみんなネットでバスってる」
カモ   「確かに選択肢は少ないが、世の中にはまだまだ不可思議なことがあるだろうが」
リョウ  「例えば?」
カモ   「例えばだな・・・」

カモの口が動きかけたとき部室のドアを短く叩く音。

全員   「ん?(ドアに注目する)」

しばらく動きがない。

カモ   「(咳払いをして)例えばだな・・・」

ドアの外から声がする。

多香子  「あの・・・、すみません(か細い声)」

慌ててシャツの前ボタンを閉じるリョウ。
座り直して表情を引き締めるレン。

ゆっちん 「誰?誰?(訊きまわる)」

テーブルに開いた成人誌を片付けるよう皆に促すカモ。

カモ   「(やや上ずった声で)どちら様ですか?よかったらどうぞ」

ドアが細く開く。

多香子  「おじゃまします」

ドアを押し開けて小柄な女子大生・佐伯多香子が超科研部室に足を踏み入れる。

多香子  「はじめまして、佐伯多香子といいます」

カモたちに自己紹介と8歳年上の兄・佐伯道雄の略歴を短く告げる多香子。
道雄が在学中に超科研にいたようだと曖昧な記憶を付け加える多香子。

リョウ  「確かに・・・」

部の歴史を綴った資料に書かれている道雄の名前を指さしながら眦をあげるリョウ。

リョウ  「2013年の資料に超科研代表工学部3年佐伯道雄とある」
カモ   「ということは超科研大先輩の妹さん・・・?」

あらためて丁重に多香子に挨拶するカモたち。

多香子  「幼い頃はすごく仲のいい兄妹で・・・」

粗末なソファに腰かけてポケットから鉛色の小袋を取り出しす多香子。

多香子  「これなんですけど・・・」

その小袋の中身は親指大のSDカードである。

多香子  「鍵がかかってて・・・。何度も捨ててしまおうと思ったんですけど・
・・」
カモ   「何ですか、それ?」
多香子  「兄の遺品です」
カモ   「えっ?」
多香子  「ええ、もう3年前になります・・・」
カモ   「それはなんというか、お気の毒さまというか・・・」

SDカードの来歴を超科研部員たちに手短かに話す多香子。

リョウ  「でもさ、ブレザーのボタンホールの下に縫いこんであったんでしょ。よっぽど大事なものじゃん?」

多香子からSDカードを受け取り手の上に乗せるリョウ。

リョウ  「しかもこれチタンフィルムのケースだよね。衝撃に強い」
ゆっちん 「中身はただのエロ画像ではなさそう(笑)」
カモ   「ゆっちん(たしなめる)」
ゆっちん 「ごめん」
多香子  「(顔を赤らめ)あ、そういう類のものだったら消去してください。そういうのだけだったら・・・」
カモ   「いや、院の研究室で研究とか、すごいですよ(不謹慎な空気を慌てて打ち消す)」
多香子  「いえ、ただの助手です」
レン   「だとしても・・・。でその、なんでしたっけ、あまね・・・?」
多香子  「天根ラボ」
レン   「その天根ラボでの特殊な実験が行われた。ちなみにどんな実験だったんでしょう?」
多香子  「それは妹の私にも教えてくれませんでした。とにかく,世間が驚くとしか・・・」
リョウ  「実験は成功してたんでしょ?」
多香子  「はい、多分」
カモ   「ところが実験データは闇に葬られた。いったいなぜ大学側は・・・」
多香子  「わかりません」
リョウ  「その実験データは、大学にとっても重要なはずなんだけど・・・」
多香子  「ただ没収されただけじゃなく、実験室は取り壊され研究室も閉鎖されたそうです」
カモ   「ひどい話だなぁ」
多香子  「兄はしばらく実家に戻っていましたが、酷く落ち込んだりイライラしたりして・・・」
ゆっちん 「わかるなぁ」
レン   「なんでやねん」
カモ   「しかし、実験データはすべて消されたわけではなかった・・・」

推量を巡らせながらリョウの手のひらにあるSDカードを見つめるカモ。

カモ   「お兄さんは不幸にも運転中の事故で亡くなられた。多香子さんはその交通事故とSDカードに関係があると?」

小さく頷く多香子。

多香子  「本当に単なる衝突事故だったのか、今も疑問に思っています」
ゆっちん 「警察は自分らに都合のいい結論しか出さんからな。信用できん!」
リョウ  「お兄さんは生前SDカードのこと何か言ってました?」

首を横に振る多香子。

リョウ  「だよねぇ。実験の概要も教えてもらえないんだから」
カモ   「とにかく、その実験データというか、その実験そのものに価値があり、かつその結果は世間を驚かせるものだった」
リョウ  「にもかかわらずその成果を研究者から取り上げた」
カモ   「よっぽど公表されてはまずいものやったか」
リョウ  「実験に倫理的な問題があって、そこをマスコミとかに問題視されることを恐れたか」
カモ   「実験データは消され、実験そのものも抹殺された」
リョウ  「研究室は閉鎖。教授は左遷。お兄さんも大学にいられなくなった」
カモ   「しかし、密かにお兄さんはその実験データを隠し持っていた」
リョウ  「持っていることさえ危険なデータやった。がゆえに、それを知った何者かによって・・・」

手のひらに乗せていたSDカードをテーブルに放り投げるリョウ。
ゆっちんとレンは身をよじらせたりのけぞったりしてSDカードから距離を置く。

レン   「何? 俺たち地雷踏んでるの?」
多香子  「でももしこれが想像していたものではなく、本当につまらないものだったら、あれは事故だったんだと納得できます・・・」
作品名:フリーソウルズ2 作家名:JAY-TA