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フリーソウルズ2

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Scene.26
黒田ヒロト

YouTube動画
道路に面した小洒落たカフェの店内のような空間

ユアト  「ユアト_セカンドインパクト_2.5です」

白い歯を見せて照れ隠しに笑うユアト。

ユアト  「皆さんからコメントやメッセージをたくさん頂きました。今回は特別にそのお礼の回ということで、2.5」

木製の椅子に腰かけてテーブルに肘をつくユアト。

ユアト  「ゼーレ_ファーストインパクトを公開したあと、賛否両論多数の反響を頂きました。ありがとうございます。いかにもアンチなものはスルーしますね。中には橋本さんと同じような経験を持つ本人や、親御さんからのものもありました。日本国内だけでなく海外からも。きょうは、その中からひと組の親子をお招きしました。お母様のお話だと、5歳のお子様がまったく他人の子どもの生まれ変わりだと主張しているそうです。嘘や作り話とは思えない、真偽を確かめたいというお母様からの相談を取りあげます。
橋本さんの場合、お仕事に差し支えるので仮名にしましたが、今回は個人ですので顔出し実名です。皆さんに素の表情をご覧いただいて真偽を判断していただきたいからです。それと、どれだけ隠しても情報漏洩社会では個人の特定は時間の問題ですから。お母様に登場していただきます」

30歳代の細身で清楚な女性・黒田佳穂が画角に入ってくる。
ユアトの向かいの椅子に着席する佳穂。

ユアト  「お名前を」
佳穂   「黒田佳穂です」
ユアト  「お年は?」
佳穂   「36歳」
ユアト  「私が聞いた話を、今一度お願いしていいですか?」
佳穂   「はい」

ひとつ咳払いをして話し始める佳穂。

佳穂   「生まれたときは普通のかわいい赤ちゃんでした。言葉を覚え始めた3歳のころでしょうか。それまでママ、ママと言ってたのが急にお母さんと言うようになって。どうしたの、ママよ、って言うと、私の顔を見て、お母さんじゃないって泣きだしたんです。クローゼットに閉じこもって泣き続けるものですから、出てきなさいって言っても、お母さんに会いたいって。保育園に連れていけば、そこでは機嫌よくお友達と遊ぶんですけど、家に帰ってきたら、また泣きだして。そんなことが1か月続いたでしょうか。心配になってお医者さんに診てもらったんですけど、原因がわからないと。私、もう訳がわからなくなって、自分の子にあなたは誰って訊いたんです。そしたら、僕はミズモリコウキだ、っていうんです。8歳だと。そのときヒロトまだ4歳でした。
ミズモリコウキなんて子の名前聞いたことも見たこともなくて。でも何度も自分はコウキだ、お母さんに会いたいと言って聞きません。いくらなだめても泣き続ける自分の子を見て、私も泣きました。あるとき鏡台に向かってこの子がへんなダンスをしていました。どうしたの?と訊くと、お母さんに教えてもらった。練習してる、と。私はダンスなんて全然できない人で、教えた覚えもありません。自分の子なのに、まるで他人の子を預かっているような日々でした。大学病院のお医者さんが、半年も経てば自然に元のお子さんに戻るから、と言われました。でもそれから1年経っても、コウキだと主張し私になつかない。家事も育児もできなくて、ノイローゼになりそうでした。最近になって、ヒロトがこんなことを言うようになって・・・。お父さんとお母さんと川に遊びに行って、僕、川で溺れたんだ。流されて、その後憶えていない、と。
電気が走りました。正直に言います。どうにかしてました。まさかと思いつつ、近所のお寺の住職にお願いして、お祓いをしていただいたんです。死んだよその子の霊が憑いてるんじゃないかと。その日はおとなしくしていました。でも翌朝見たら、鏡の前でまた踊っているんです、ヒロト。何もかもが崩れて、谷底に突き落とされた気分でした。そんな折に、ユアトさんの動画に出会って・・・」

いったん話すのを止めてユアトを見つめる佳穂。
佳穂に優しく微笑むユアト。

ユアト  「黒田さん、辛い経験をお話しいただき、ありがとうございます。この続きは私から話しましょう。ヒロトくんとは別に、ミズモリコウキという少年が本当にいるのか。皆さん気になりますよね。私も気になりました。で、ヒロトくんから話を聞いて、場所を特定しました。茨城県土浦市です。そこに水森コウキという8歳の少年が実在して、いました。これからご覧いただく映像は、佳穂さんと黒田ヒロトくんが水森家を訪れたときのものです。カメラを廻しているのは私です」

YouTube動画の画面がカフェから移動する車中に切り替わる。

ヒロトが車の窓に顔を近づけて言う。

ヒロト  「ほら、僕が言った通りでしょ。大きなお姉さん」

それは牛久大仏である。

ヒロト  「背の高い山も見える」

筑波山。

ヒロト  「ひこーきがたくさん」

上空を往来する旅客機の機影。

ヒロト  「煙突のあるお家を曲がると僕の家が見えるよ」

車が製煉所の建物の角を曲がる。
築50年は経つであろう平屋の一軒家が正面に見えてくる。

ヒロト  「あそこが僕の家」

車が平屋の前で停まる。
シートベルトを外そうとするヒロトを佳穂が抑える。

佳穂   「まだよ、まだ車にいなさい」

佳穂に抵抗するようにぐずるヒロト。
逸る心を楽しむかのように目を輝かせるヒロト。

ユアト  「ちょっと、待っててね」

撮影を停止し車から降りるユアト。
三脚にカメラを据え水森家の玄関が映るように固定するユアト。
再び撮影が開始される。
水森家の玄関に向かうユアトの後ろ姿。
玄関から現れたのは水森コウキの母・水森妙子である。
玄関先で挨拶を交わすユアトと妙子。
ユアトの言葉を聞いて眉間に皺を寄せる妙子。
その様子を窓から見ているヒロト。
車から飛び出してくるヒロト。
ヒロトを抑えきれなかった佳穂。

ヒロト  「お母さーん!」

勢いよく走ってくるヒロトを両手を広げて制するユアト。

ヒロト  「(ユアトの腕の中で)ただいまっ! あ母さーん!、お母さーん!
     (暴れる)」

顔を曇らせて屋内に消える妙子。
画面が水森家のリビングルームに替わる。
電源を落としたテレビの前で踊っているヒロト。
妙子に見てもらいたいがために何度もアピールするヒロト。

ヒロト  「いっぱい練習したんだよ。ほら見て」

麻暖簾のかかったキッチンの柱にもたれる妙子。
複雑な表情でヒロトを見ている妙子。

ヒロト  「ストップアンドゴー、できるようになったよ」

一心不乱にヒップホップを踊るヒロト。

ヒロト  「お母さん、カズヤ来てる? しばらく会ってないけど」
ユアト  「(声だけ)カズヤって誰?」
妙子   「(小声で答える)ダンススクールのお友達です」
ヒロト  「(踊りながら)同じチームなんだ。シンちゃんも、コジローも」

微笑みながら頷く妙子。
微笑む瞳に涙が滲む妙子。

ヒロト  「4人で優勝するんだ。ねえお母さん、コンテストに優勝したら。アカネ先生喜んでくれるかな」

嗚咽が漏れそうになる口元を手で押さえる妙子。
溢れた涙が幾筋も妙子の頬を流れ落ちる。
作品名:フリーソウルズ2 作家名:JAY-TA