フリーソウルズ2
Scene.24
忘れ物
スタジオスウェイドのある建物を出て駅まで歩く”姫君”の4人と山本恭一。
真凛 「あっ!(立ち止まる)」
うらら 「どうしたの、真凛?」
真凛 「忘れ物・・・したみたい・・・(ポケットの中に手を入れて探す)」
うらら 「スタジオに?」
真凛 「うん・・・。取ってくるわ。先に帰ってて」
うらら 「そう・・・」
顔を見合わせるひめ、うらら、綾乃。
うらら・ひめ 綾乃「じゃあ(歩を駅に進める)」
無言で3人に付き従う恭一。
恭一の襟首を掴む真凛。
真凛 「キョーイチ、お前は付き合え」
恭一 「な、なんで、俺が?」
真凛 「夜も遅い。女子高生がひとりで歩いてたら物騒だろうが」
恭一 「ま、真凛さんなら大丈夫かと・・・」
うすら笑みを浮かべる恭一の腕の皮を真凛がつねる。
恭一「いてててて(痛がる)」
真凛と恭一のやりとりを離れたところからひめが見ている。
ひめ 「山本くん、付き合ってあげて」
腕をさすって渋々承諾する恭一。
真凛と恭一はひめたちと別れてスタジオに戻る道を歩き始める。
真凛 「で、キョーイチはどう思った?」
恭一 「どうっ、て?」
真凛 「ゼーレやユアトの話」
恭一 「さっぱり全然理解できないっす」
真凛 「何か感じるところはあるだろ」
恭一 「そういうの、鈍感で・・・。ただ・・・」
真凛 「ただ・・・?」
恭一 「ユージの様子が、最近変だなぁと感じていて・・・」
真凛 「ふむふむ」
恭一 「・・・それだけ・・・」
真凛 「それだけかい!」
真凛と恭一はスタジオスウェイドに戻る。
カウンタースタッフに忘れ物と声をかける真凛。
恭一 「何ですか、忘れ物って?」
ルームAに入る真凛と恭一。
真凛 「あの浴衣の彼女、家に帰ってないんだろ」
恭一 「陸上部の先輩ですか?」
真凛 「だから調べてもらう」
恭一 「誰に?」
答えずに私物ロッカーに向かう真凛。
4桁の開錠コードを押す真凛。
中からラップトップPCを取りだしテーブルの上に置く真凛。
真凛がラップトップを開きテンキーを叩くと、ディスプレイとキーボードの間に3Dのポリゴンが立ち上がる。
真凛 「(変顔をポリゴンに向けて)金井カーネル真凛」
Approvalの文字が表示される。
レオ 「(ポリゴンが喋る)やあ、真凛。こんばんわ」
真凛 「こんばんわ、レオちゃん」
レオ 「真凛、ちゃんづけは親しみを表す反面、人を小ばかのしている表現でもあるのだよ」
レオは西洋人のような彫の深い顔立ちで長いあごひげがある。
全体は2頭身。
真凛 「尊敬してます。レオちゃん」
レオ 「ひめやうららはいないのですか?」
恭一 「(部屋の隅で驚いて呟く)何ですか、これ?」
レオ 「(威厳のある声で)誰ですか、そこにいるのは?」
両者を見較べて天を仰ぐ真凛。
真凛 「見つかっちゃった・・・」
レオ 「ルール違反ですよ、真凛。ひめに叱られますよ」
真凛 「それは大丈夫。キョーイチをこの部屋に最初に入れたのはひめ本人。それにキョーイチはチェザルモのことも知ってるし」
レオ 『彼はチェザルモではありませんね」
真凛 「みたいだね」
レオ 「では、この件はペンディングにしましょう。では・・・」
ポリゴンが薄くなって消えかかる。
真凛 「待って、待ってよ、レオちゃん」
レオ 「何ですか、真凛」
真凛 「用事があって会いにきたんじゃん」
レオ 「姫君4人が揃ってないケースでの質疑応答は許可されない、というルールをお忘れですか」
真凛 「忘れてない。知ってる。知ってて尋ねる」
困った顔をして渋々受け入れるレオ。
レオ 「何ですか、用事とは?」
真凛 「ある女性について調べてもらいたい」
レオ 「ある女性? 個人的なことは受け付けませんよ」
真凛 「チェザルモかもしれない(咄嗟のでまかせ)」
レオ 「(しばらく考えて)名前を言ってください」
真凛 「どうもんかおり」
3Dポリゴンが一瞬止まり、すぐに動きだす。
レオ 「どうもんかおりは日本に10人います」
真凛 「(恭一を手招きして)名前を言え、漢字で」
恭一 「(ドギマギしながら)僕の・・・?」
真凛 「お前んじゃない! 浴衣の彼女」
恭一 「あ、どうもん先輩」
真凛 「漢字で言うんだよ」
恭一 「・・・?」
真凛 「レオ。リスト出して。リストから選ぶ」
PC上に10人のどうもんかおりの名前と年齢が投影される。
リストの上から下まで見較べて8番目を指さす恭一。
恭一 「これ、童門香織。18歳」
その名前のセル背景は他と違って薄いピンクになっている。
真凛 「レオ、この子は?」
レオ 「チェザルモの可能性有りです」
真凛 「やっぱり、そうか・・・(初めて見るセルに大げさな演技)」
レオ 「可能性の段階です」
真凛 「今現在どこにいるか知りたい。住所地には帰ってないらしい」
レオ 「可能性の段階なので、トレースは5%しかできていません」
真凛 「どこで暮らしてるとか、どこかでバイトしてるとか・・・」
レオ 「不明です」
真凛 「最新の画像はある? 背景で場所とかわかるかも」
レオ 「少しお待ちください」
無数の画像が矢継ぎ早に表示される。
最後の写真は浴衣姿の童門香織である。
真凛 「この娘だ・・・。間違いない・・・」
胸がつまる思いを堪える真凛。
写真は俯瞰で撮られた全身写真で背景がほとんど映っていない。
真凛 「場所がわからない。別の写真は?」
背景に人込みと屋台が映りこむ写真に替わる。
真凛 「あちゃー。これ山下公園じゃん」
レオ 「これより古いのは、高校入学時です」
真凛 「要らねぇ」
花火に映える浴衣姿の香織を見て思案する真凛。
真凛 「これじゃあ、わからないなぁ・・・」
恭一 「(写真をじっと見て)もしかしてわかるかも・・・」
真凛 「えっ?」
恭一 「レオさん、顔をもっとアップに」
真凛 「何だよ。キョーイチ」
香織の顔がズームアップされる。
二重に涙袋。幼さが残る目尻。
恭一 「目元じゃなくて耳元」
ズームアップされた香織の耳に耳飾りが輝く。
恭一 「真凛さん、このイヤリング。ピアスかな」
イルカを象った銀色の小さなフィギュアが香織の右耳に光っている。
真凛 「イルカ?」
恭一 「イルカ・・・」
真凛 「このあたりでイルカといえば・・・」
真凛と恭一は顔を見合わせる。
恭一 「(真凛と声を合わせて)えのすい!!」