フリーソウルズ2
Scene.15
映画館
有楽町のビル街にある小さな映画館の前に高級乗用車が停まる。
最後の上映を終えて客は捌け、映画館はひっそりしている。
小さな映画館は座席数も多くない。
仄かな客電が灯るがらんとした館内に人の影がひとつだけある。
年老いた男が場内の中央付近にぽつんと座っている。
男のふわりと輝く頭髪を見つけるひめ。
場内の後方から光の帯がスクリーンめがけて放たれる。
スクリーンにチャールズ・チャップリンの無声映画が映しだされる。
ひめ 「淡嶋会長、まぁ贅沢なですこと」
男に隣の席に静かに掛けるひめ。
淡嶋 「映画は映画館で観るにかぎる」
ポップコーンの入った紙箱をひめに手渡しす淡嶋。
ポップコーンを一つまみして口元に運ぶひめ。
ひめ 「”キッド”ですね」
淡嶋 「ああ。チャップリン映画はモダンタイムスや黄金狂時代だという人も多いが、私はこの映画が一番好きでな」
ひめ 「あたしもです、会長」
スクリーンを見つめるひめの横顔を一瞥して目を細める淡嶋。
しばらく隣合わせて映画を観たあと、淡嶋が切りだす。
淡嶋 「捜索範囲を広げてみてはどうかね、ひめ」
ひめ 「椿谷裕司の件ですか」
淡嶋 「ああ」
ひめ 「はい、上空から捜索してもらうよう群馬県警と栃木県警に協力要請を」
淡嶋 「いや、もっと広範囲に」
ひめ 「関東全域ですか」
淡嶋 「いや、広範囲に」
ひめ 「は???」
淡嶋 「金精峠トンネル付近の事故車、何か引っかかるんだよ」
ひめ 「ひっかかるというと?」
淡嶋 「レオのNシスと監視カメラのハッキングは北関東だろ」
ひめ 「ええ、それとメールや通信全部、北関東に集中して分析してもらってます」
淡嶋 「私の思い違いかも知れんが、北関東にはいない気がするんだ」
不思議そうな顔をするひめ。
ひめ 「事故現場の近くに落ちていた麻縄、裕司のDNAが付着してました」
淡嶋 「偽装かもしれん」
ひめ 「事故の偽装ですか?」
淡嶋 「わからん。事故は本当に起きたのかもしれん。ただその裕司くんがレオの捜索網にかからないことがな。10日も・・・」
ひめ 「そうですね、言われてみれば。捜索範囲見直します」
淡嶋 「ああ。早く見つけたほうがいい」
映画”キッド”は終盤を迎えている。
子役のジャッキー・クーガンとチャップリンが無理やり引き離されるシーンで手を軽く挙げる淡嶋。
映写が停まる。
客電が灯る。
淡嶋 「この続きはまたにしよう」
ひめ 「はい」
ハンカチで目頭を押さえるひめ。
淡嶋 「ところで(眼鏡をかけ懐に手を入れる)」
上着の内ポケットから写真を取り出す淡嶋。
青い目をしたロングヘアの人物が写っている写真。
写真を仄暗い照明にかざし目を凝らすひめ。
ひめ 「誰ですか?」
淡嶋 「(眼鏡をずらし)きょう昼過ぎ、ユーチューブにあがっていた。名前はユアト」