架空植物園2
東南に面した部屋の戸の前、陽の当たる場所で椅子に座った妻。足は土を入れたプランターに入っている。妻はもう普通の食事はしなくなっていた。
音楽を聴きながら途切れ途切れの言葉で「あなたに」……「出合った時」……「嬉しかった」……「今はそれ以上」……「幸せな気分……」
葉はもうお腹まで覆っている。いつのまにか椅子は必要としなくなっていて、以前の身長の3分の2位の高さで直立していた。これが乳児だったら立ったことを喜びもするが、妻は誇らしげにも見える表情をしていた。
私は仕事の合間に妻の様子を見、土の表面が乾いてきたら水を撒き、時に葉にもあげた。「ふーっ……ご・く・ら・く」と言って妻は笑ったように見えた。もう顔も少しずつ縮んできている。
季節は夏に移ってゆき、葉の育つスピードがあがっている。もう腰を覆った葉は妻の形の良いバストに向かっている。私は嫉妬に似た不思議な感情に襲われて、妻の乳房に触れた。私を喜ばせた感触はもう無くなっていて、それでも幽かに温もりが感じられた。あらためて私は声を出さずに「さようなら」を言った。そのあと、自分は妻に「さようなら」を言ったのかおっぱいに「さよううなら」を言ったのかと思うと少し可笑しくなり、笑った筈が出てきたのは涙だった。
太ももも、大きかった腰も次第に細り、盆栽の木の様にも見えた。植物は春から秋に花が咲き、実をつける。花は咲くのだろうか。私は頭がおかしくなりそうでその先の想像を止めた。
ブラジャーをつけていない妻の乳房を葉が半分ほど覆い始めた。それは有名な画家が描いた絵のように美しかった。