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架空植物園2

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次第に秋に向かっている。私は仕事を辞めた。期待と恐れと自分の人生も考えながら過ごす日々、これは神が私だけに与えた褒美なのだと思うようにした。趣味は妻ですと心の中で言った。
もう顔の近くまで葉が覆っている。顔も同じように葉で覆われるのか? 上半身も細く、そして短くなった。

不思議なことに葉は顔の部分を避けて頭部を覆い、妻の表情も失われて来たが、微笑んでいるように見えた。もう私の話かけにも応じられない。私はそっと妻の頬に触れた。少しだけ振動が伝わってきた。その振動は私の鼻の奥から湧き出してくる。それは甘い涙となって私の頬を伝って落ちた。

しばらくすると顔の表情が少しずつ変わって行き、妻の顔の名残を残しつつ花の形になりつつあった。私はあの涙で別れを告げた気分になり、かなり冷静に観察を続けた。花の上部、人間でいえばおでこの辺りにそっと触れると幽かな振動を感じ、しばらく立つと花の両脇から水分がにじみ出してくるのがみえた。その水滴の重さに耐えられないような感じで花びらが下に落ちた。私はその花びらを拾って手の上で眺めた。少しずつ乾いて行く葉の水滴を見ながら私の中の水分が身体の奥から押し出されてくるような感覚で、やがて涙となって頬を通過して行く。

土が乾かなくなり、葉の色が少しずつ変わってきた。もみじのように黄色から赤い色に変わって行く。少しだけ人間の面影残した盆栽の紅葉という感じだった。

葉が一枚散った。私はその一枚を手にとって眺めた。赤い色の中に黒い色がぽつんとあった。「おい、シミができてるぞ」と言葉にしたら、また涙がこみ上げてきた。

        *        *

紅葉も散ってしまい、枯れ木のようになった元妻をどうしようか考えた。それはちょっとプランターを動かしただけで、崩れ始めた。木くずのようになったそれをビニール袋に詰めて、次の早朝に近くの公園の人のあまり入り込まない場所に埋めた。埋め終わってから、何か供えるものを持ってこなかったのに気づいたが、ポケットを探ってもハンカチとポケットティッシュと薄っぺらい財布だけだ。周りを見渡してももう咲いている花は無い。それでもこのまま去るには抵抗があった。おおきな木の下で松ボックリのようなものを見つけた。それはバラの花のような形をしている。以前見たことがあるそれはヒマラヤシーダーという松ボックリなのだが、元々細長いけれど元の方が剥がれて落ち、先端部分だけ開いたまま残っているバラの花のような形のものだ。それを供えて私は妻に別れを告げた。


ここに記録はしなかったが、色々な督促状が届いている。電話はもう使えないし、お金になるようなものは売り払ったし、家賃も滞っている。もうホームレスしかないだろう。妻と一緒にもう私の人生は一度終わっている。


作品名:架空植物園2 作家名:伊達梁川