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架空植物園2

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どちらかというとおとなしい女だった妻が、家に帰っても機嫌が良かった。テレビのくだらないと思えるお笑いも声を上げて笑う。まあ、出かけた時は少し高めのディナーだったりしてテンションが上がっていることはあったが、次の日からも同じだったので、不思議に思いながらも私も嬉しかった。

数日経ってから、「あ、芽が出てきたみたい」と妻が大声を出したので側に行くと、妻は座り込んでとげの刺さった場所を見ている。
「えっ、そんなことある?」私は驚いて「病院に行って見てもらおう」と言ったら、即座に「ヤダッ!」と言った。
「なんだか凄く嬉しい気分なのよ。とうとう出来なかった子供が出来た気分よ。絶対病院には行かないからね」と私の顔を見て言った。私は何も言わず妻の足首を見た。少し薄めの緑色の双葉になる手前のような状態だった。

季節は春、日毎に葉の形もしっかりしてきて双葉は足首にしがみついている。妻は毎日霧吹きで水をかけているのだが次第に動きが緩慢になり、葉は増殖してふくらはぎあたりまでを覆っている。まるでお腹にいる胎児に話しかけるように優しく葉を撫でている妻を見ている私は精神が壊れていくようにも見えて寒気を覚えた。そして私の精神も壊れていくのではないかという危惧も覚えた。それでも穏やかな妻の表情を見ているともう成り行きに任せようと腹をくくった。

初夏になって妻は殆ど動くこと無く陽の当たる場所で時々身体が揺れているといった状態だった。私が話しかけることに答える声はかすれ、ことば数も少なくなっている。葉はもう太ももに達し、下着が邪魔だからと鋏で切り外した。昔の西洋絵画にあるように性器のあったあたりは大きめの葉で覆われている。

「お願いがあるんだけど」と妻が真剣な顔をして言う。「少し大きめのプランターと土を買ってきてくれない?」
妻の意図することはすぐに分かったが、私には大きな人生の分岐点に立った気分だった。

作品名:架空植物園2 作家名:伊達梁川