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架空植物園2

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ロフトから下りてからそのノートを読み始めた。最初はパラパラと読み飛ばして、個人的なメモのようなものだったら捨ててしまおうと思ったのだが、ずっと読み続けてしまった。以下が日記の全文である。

         *          *

妻は欲しがっていた子どもが出来ない体だと知り、落ち込んでいた日々もあったが、お互いの両親が亡くなって一人っ子同士の私達は遠い親戚のみで、行き来もなく、それも気楽で良いと思っていた。高校生の時に妻の友だちだった女性も他県に引っ越してしまい、私もフリーのグラフィックデザイナーで、たいてい家に居る。だから出かける時はたいてい二人一緒だった。
妻の不思議な症状というか変化があらわれたのは、国立大学の大きな薬用植物園の一般開放日に行って珍しい色々な植物を見た時のことだっが原因であろう。

林の道を歩いているうちに、方角がわからなくなり、隔離されたているような小さな建物を見つけた。近づいてみると鉄格子の扉が少しだけ開いていた。どうみても一般者が入って良いような場所ではなさそうな雰囲気である。周りにも室内にも誰もいなそうだったので、好奇心で中に入った。妻は「大丈夫? ここは立ち入り禁止っぽいよ」と言っていたが、もう不思議な植物を見て引き返せなくなっていた。
木の幹に葉がびっしりと張り付いている。かなりシュールな光景だった。上の方には普通に枝があり、その太い部分も葉が張り付いている。更に分かれた小枝が太くなるのを待った居るように小さい葉があった。

葉は裏に繊毛のようなものがあるのだろう。それで他の木に張り付いて水分を吸収するか、雨水をため込んでいるのかもしれない。一つの葉の先端からまた葉が出て生長し、電車の連結のように繋がって上へ上へと登って行くのを繰り返したなか、それだと蔦のような形になる筈だから横にも芽が出て繋がっているということになる。器用に葉と葉が重ならないようにずれてへばり付いている様は芸術とさえ思える。
「すごいねえ、一番下の葉には根があるのかな?」そういってしゃがんだ妻が「痛い!」と声を出した。それを聞きつけたのか、奥の方で声がしたので慌てて半開きにままの鉄格子の扉から外に出た。落ち着いてから痛いと言っていた場所を見ると足首に血が滲んだあとがあり、とげのようなものが刺さっている。抜こうとすると痛がるのでそのままにしておいた。
このときに家に帰るまで妻はいつも以上に気分が良さそうで、普段よりもよくしゃべった。

最初は妻の不思議な症状を一緒に見ていただけだったが、書いて行くことによって精神のバランスが保たれるようになった気がしたので、書き続けるようになった。これを前文としよう。


作品名:架空植物園2 作家名:伊達梁川