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架空植物園2

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水泳する葉



真夏の子供の頃のあの時、エアコンなど無い時代だったから皆昼寝をするのが習慣になっていて、暑さがいくらか収まった頃から農作業をするのだった。しかし子供はそおっと外で蝉を捕ったり、小川に入って沢蟹などを捕ったりしていた。
外には友達も誰もいないので、僕は溜池に行ってみようと思い立ち汗を流しながら上り坂の農道を歩いた。ようやくため池に着いた。ここは農業用のため池なのだが、過去にここで泳いでいて溺れ死んだひとがいるので、絶対に入ってはダメだとどの近所のどの家の親も子供に言いきかせている。現に池の周りはバラ線と呼んでいる鉄条網で囲まれていた。
僕はバラ線を持ち上げて中に入る勇気は無く、木陰からただぼんやりと池を眺めていた。

やがて(木の葉が泳いでいる)と思った。普通なら風で流されていると考える筈だが、直感的に僕は思ったのだ。2枚の木の葉、少し青みがかかったその葉はかなりゆっくりと岸に向かっていた。見失わないように僕は位置を変えながらその葉を見続けた。さほど大きい池ではなく、小さい浜の様な場所もあり、そこには大きめの樹があって、枝がバラ線より手前にせり出している。ちらっとその枝を眺めながら動く葉を観察する。やがて2枚の葉は浜に着きひと休みするように動かないでいたが、かなりゆっくりと移動し始めた。よく見ると動く葉の色と同じ葉をつけた灌木が水際にあるのが見える。おそらくそこに戻るのだと思えた。僕は目の前の枝を見上げる。十分に届く距離だ。太さも僕の体重を支えるには十分だろう。枝をつかみ鉄棒の逆上がりの要領で枝にしがみつき足を乗せることが出来た。あとは幹に向かって進み、低い枝を足がかりにして最後は飛び降りた。
動く葉もびっくりしたのだろう。動きを止めている。

降りてから僕はそおっと近づいて至近距離で見る。浮き草の突然変異だろうか。あるいはその反対の進化形で自ら落葉し、水に向かったのか……ということは後に考えたことで、僕はその時学問的なことは頭に無く、その珍しい葉を眺めそっと手を伸ばした。すっ葉は僕の手をすり抜け逃げた。本能的にそれを追う。予想外に素早く移動できるのにびっくりしながら、前に回り込みそれを捕まえた。昆虫や両生類のように頭やしっぽがあるということはなく葉の裏側には多数の糸のようなものが見えた。これで水分を吸ったり足の役割をしているのだろう。それが分かったので、それをゆっくり地上に戻した。もう一枚はどこに逃げたか分からない。とりあえずまた観察を始めた。

もう灌木の近くでやはりそこに向かっているようだ。灌木は根元が少し見える程度でその上は葉がいっぱいだったが、一度見失ったもう一枚の葉が根元に見えた。その姿は子を待つ親あるいは恋人を待つ相手。僕は心の中で(いい光景だなあ)と思った。

作品名:架空植物園2 作家名:伊達梁川