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架空植物園2

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おそらくここから入ってきたのだろう、と思える場所に着いた。むき出しになった大きな木の根があって、光が入ってきている穴が見えた。しかし穴までの高さがありすぎた。試しによじ登ろうとしたが、握力が持たず1メートルも進まずに滑り落ちた。抱えて登るには太い根で、足場になる突起もない。さあ、最後のサバイバルゲームだ。考えろ、短い時間で。私は上を見上げながら考える。背負っているリュックに使えるものはあるだろうか。雨合羽、懐中電灯、小さいタオル、飲み物、お菓子少々。折りたたみの小さな果物ナイフを手に持って考えた、何かに使えそうだが、小さいものしか切れないだろう。蔓性の植物はあっただろうか。ロープの代わりになるものが手に入ったら何とかなるかもしれない。どう使うかを考えながら探してみることにした。

アケビに似た植物があったが、蔓が細すぎて役に立つとは思えなかった。希望的考えでは大きめの石をくくりつけた太めの蔓を穴の外へ放り上げる。それを引いて、自分の身体を大きな根に足をかけながら上方に行くというものだったが、楽観的な考えであることは確かだ。穴の外に放り上げることが出来ても、引いたら戻ってきて、ここに落ちてくる可能性が大きいだろう。少し焦りが出てきた。梯子があるわけはないし、脚立もない。その代用になるものも無い。小さな果物ナイフで太くて固そうな根に足場をつけるのも不可能に近い。ああ、どうすればいいのだろう。大きなため息を吐き出した。それに煽られるように飛んでいた蝶が揺れた。

大きな木の根の出っ張りに座り、また対策を考えていた。上からの光も弱くなってきている。野宿ということも考えたほうがいいのではないか。今は夏だから凍え死ぬ可能性は無いだろう。地上より地下の方が温度差も少ない筈だった。急に空腹を感じてあの団子草を思い出した。場所はどの辺だったかなと思いだそうとしたとき、緑色のゆっくり動くものが目に入った。

ゆっくりと、でも確実にこちらに向かってきているあれは、見分けの根拠も無いのにあのドラゴンだと思った。私は立ち上がり近付いていく。その前で先導しているように飛んでいる蝶も見覚えがあった。あ、あの時と逆だ。どこか息づかいも荒く思えてしまうドラゴン。飛ぶことも歩くことも出来ない植物のドラゴン。亀のようにゆっくり移動出来る亀龍草と名付けた植物。私は抱きしめたいと思ったが、ドラゴンは(今、それどこじゃないでしょう)というように大きな根に向かう。

穴からの光は、さらに弱くなってきている。ドラゴンが動きを止めた。蝶が誘導するようにドラゴンの背中で舞っている。私はドラゴンの背に乗って、少しずつ上に移動した。ドラゴンは掴まるべき所が多くて楽だった。ドラゴンの頭と思える所と私の頭が並んだ。手を伸ばせば木のウロの一部に手が届く。言葉は通じないだろうと思ったが、ドラゴンに「ありがとう」と言って、その頭の部分を抱きしめた。うねりのある軽い振動が伝わってきた。ドラゴンが背伸びをするように私をさらに押し上げて、私の上半身は地上にあった。さらに力を入れると全身が地上にあった。すぐに、穴を見る。するするすると縮んでゆくようにドラゴンの身体は下降しやがて見えなくなった。

太陽の位置もかなり西で、上空は黒い雲が広がっている。どこかで雷の音がする。下山を開始してすぐに稲光と同時にもの凄い轟音が響いた。振り返った時に、あのウロのある大木が白く光って見えた。ドラゴンは無事だろうなぁ、今日起こった出来事を思い出しながら私は下山を続けた。




作品名:架空植物園2 作家名:伊達梁川