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架空植物園2

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私は急に左の腕に軽い衝撃と昆虫の足がへばりつくような感じがするのを感じた。とっさに腕を振ったせいか、その昆虫はどこかに行ってしまった。少し心拍数があがっている。蝉かカブトムシのような気もするが、一瞬の出来事だったので姿もおぼろだ。何が起こるかわからない。もし、毒のある昆虫だったら危ない。より慎重に辺りを見ながら歩く。そうやってゆっくり歩いたせいか、また珍しいものを発見した。

縮尺が違っているというか、これは盆栽だなあと思える松の木があった。30㎝から50㎝丈で人の手が加わったように微妙に曲がり風情を出している。名前は盆栽の木としようとしたが、そのままじゃないかという自分のツッコミによって却下された。心の中で(次行こう)と言葉にしてまた歩き出した。

木の葉の真ん中に花が咲き実もなるハナイカダという植物は見たことがあるが、ここには葉の中央から葉が出て、その葉の中央から又葉が出ているというものがあった。当然次第に小さくなってゆく。これは合わせ鏡の木と名前をつけた。あまりに珍しい植物ばかりなので、どこか大雑把にになっていて、ちょっと変わったところがあるだけでは驚かなくなった。

ブフィッ!
驚いた。形が変わっているくらいでは驚かなくなっているが、足が何か柔らかいものを踏んだ感触と音がしたので瞬間に身体が数センチ飛び上がった感覚がある。目の前で埃が舞っている。目を細め息を止めて足元の様子を見る。大きなマッシュルームのようなものが潰れて、そこから煙のように胞子を吹き出したようだ。後ずさりしながら(毒は無いだろうな)と様子を見る。もし繁殖のために踏まれることによって胞子をばらまくのなら、踏みつけた動物を殺してしまったら困るだろう、という結論に至った。側の岩に腰掛けて水分補給をしながら身体の様子を見た。どうやら何とも無さそうだった。もう命名も飽きてきてこのキノコに名前はつかない。

何となくわかったことがある。ここでは木の丈が大きくならない、草のほうが丈があるということだった。その小さな木に実がなっている。これって栗だよなあと独り言をいいながらそれを眺める。イガが無く、二つあるいは三つの栗の実が透明のイガに守られたようにまとまって付いている。茶色になっているそれを取ってみた。実が熟しているからだろう、それはすぐに剥がれて取れた。歯で噛んで皮を剥いて見た。渋皮に包まれた、普通の栗であった。ここには天敵の虫がいないので、こうなったのだろうと思った。さて、何と名前を付けようかと悩んだ。イガ無し栗では芸が無い。焼き栗で「皮むいちゃいました」という商品がある。じゃあ「イガやめました」にしよう。芸が無いことに変わりはないか、と自分で笑ってしまう。

ここに来てからの時間感覚が曖昧だ。ふだん時刻は携帯で確認しているので腕時計は持っていない。携帯も動作や標示がおかしいので電源を切っている。太陽の位置でおおよその時間を知るということは、ここではどうなのだろう。見上げると太陽にも見える光が幾分陰っている。あれがだんだん弱くなって消えれば外は夜になっているのだろう。妻には山に行くと言ってきたが、夜になっても帰らないと心配するだろう。私は急に家に帰りたいと思った。

作品名:架空植物園2 作家名:伊達梁川