くたばれサンタクロース!
まえの晩にちょっと飲みすぎたせいで、ようやく目が覚めたのは十時ちかく。頭ガンガンするし、胃もムカムカ、おまけに気分はすっかりブルー。べつにやけ酒したわけじゃないのよ。友だちに愚痴聞いてもらってたら知らないうちにお酒がすすんじゃって、気づいたらもうまっすぐ歩けない状態だったの。肩貸してもらってなんとかタクシーには乗れたんだけど、玄関さきでバタンキュー。お向かいの犬にワンワン吠えられて、様子を見にきたママに部屋までかつぎ込まれた。
けっこう短いスカートはいてたんで、みっともない姿だったろうなあって想像したら、マジ冷や汗もんだよ。おまけにセーター着たままベッドへ潜り込んじゃったから寝汗でびっしょり。ペットボトルのお茶で水分補給してパジャマに着がえたら、やっぱ頭ズキズキするし、けっきょく布団かぶってもう一度寝てしまった。
いつまで寝てんのよってママにたたき起こされたのは、もうお昼をだいぶ過ぎたころ。さすがに頭痛はおさまったけど、吐く息がちょっとお酒くさい。とりあえずシャワー浴びて、濃いめのインスタントコーヒーを入れた。大学の講義は冬休み。カレシはバイトで、しかも今はケンカちゅう。友だちはみーんなデート。あたしはすることがない。それでもイヴに部屋へこもっているのは悲しかったから、街へ買いものに出かけることにした。
玄関ドアをあけると、なんと雪がちらついてるじゃん。
「やった、ホワイト・クリスマスっ!」
って、べつに嬉しくはないんだけどさ。とにかく見るからに寒そうだったので、ウールとファーでモコモコになるまで武装して家を出た。
最寄駅から東武東上線に乗って二つ目の駅で降りる。とくに理由なんてない。決してカレシがこの街でバイトしてるからじゃないってことだけは明言しておくよ。ホント、ホント。
北口から複合施設へと通じるデッキは、ひとでごった返していた。見おろす街なみはうっすらと雪が積もって、まるでシュガーコートされた巨大なクリスマスケーキみたい。そこらじゅうの店舗でイルミネーションが明滅して、広場やフードコートには電飾をちりばめたツリーがニョキニョキ生えてる。
なにも考えずに家を出てきたけど、とくに買いたいものがあるわけじゃないし、二日酔いであんまり食欲もない。おまけに店はどこもメチャ混み。行くあてもないままムートンブーツでしゃくしゃく雪を踏んでたら、いつの間にかカレシが働いてる洋菓子店のちかくまで来ていた。
赤いレンガを積みあげたようなレトロな外観。フランス国旗とおなじトリコロールのシェード。
ショコラ・デュ・パルフェ。
情報誌にもよく名まえが載ってる、老舗の洋菓子店だ。
もっともカレシの場合はアルバイトだし、まだ技能資格もないから菓子作りはさせてもらってないらしい。接客とかお店の清掃だけ。それでも採用が決まったときは、夢に一歩近づけたといってすごく喜んでたっけ。
べつにコソコソする必要はないんだけど、なんとなく気まずくて、通りをはさんで向かいに停められていた宅配便のトラックの陰に隠れた。
見ると店のまえにはけっこうなひと通りがあって、そこに赤い帽子をかぶったサンタクロースが立ってる。手書きのでっかい看板しょって、道ゆくひとたちにチラシのはさまったティッシュを手渡してる。だてメガネと付けヒゲで扮装してるけど、仕草や背格好ですぐにわかってしまった。カレシだ。
急に冷たい空気が肺へ流れ込んできて、胸がキュッて痛くなった。
大学受験を蹴ってまで菓子職人への道を選んだカレシ。
夢はちゃんと叶うの?
あなたはホントに信じてるの?
思い描いた未来の実現を――。
ねえ教えて、時給九百五十円のサンタクロースさん。
♂ ♀・゜・。
作品名:くたばれサンタクロース! 作家名:Joe le 卓司