くたばれサンタクロース!
カレシの夢は高校のころからずっと変わらない。
洋菓子の職人になること。
校庭でサッカーボール追いかけてるときも、心のなかではロナウドやメッシじゃなくて、ラデュレのパティシエになることを夢見ていた。
男子のくせにスイーツの魔力に取り憑かれてるなんて変なやつって当時のあたしは思ってたんだけど、一度だけ友だちん家のパーティーで手作りのマカロン食べる機会があって、それからあたしのカレシに対する見かたが変わった。
高校生が焼くマカロンの味なんてたかだか知れてるけど、てかじっさい生地が口のなかでモサモサしてほかの女子たちからは不評だったけれど、味自体は悪くなかったし、あたし的には素直に美味しいなって感じられた。
なにより泡立て器持つときのカレシの表情がすごく凛々しくて、なのにちょっと嬉しそうで、お、こいつ輝いてるじゃんって思ったから、こっちとしてもつい本気で味わってみたくなったのかもしれない。
食欲と恋愛って、じつは密接に関係してるんじゃないかと思う。
あたしはカレシの焼いてくれたマカロンの味が忘れられなくて、味見しながら作ってるカレシとキスしたらきっとおんなじ味がするんだろうなーとかバカみたいなこと妄想してるうちに、ホントにカレシとキスしたくてたまらなくなった。
告白したのは、あたしのほうから。
チキンで照れ屋のカレシは、えーっ、川村ってオレのこと好きだったの? マジでえ? どうしようかなあとか憎たらしいこと言ってたけど、あたしが真剣な顔でしかもちょっと涙目になってるの見て、ウソウソ、おれもおまえのことずっと良いなって思ってたんだ、だって。じゃあ最初から素直にそう言えっつーの、バーカ。
それから一緒に帰ったり休日にデートするようになって、ある日ママが法事へ出かけたすきに、こっそり家に呼んだ。そこで例のマカロンまた焼いてもらって、ついでに初えっちも済ませた。
はじめてのセックスは思い返すのもためらわれるような恥ずかしい結果に終わったけど、マカロンはやっぱり美味しかった。まえに食べたときはちゃんと作るとこまで見てなかったけど、そのときは材料買うところから一緒につき合ったせいもあって、アーモンドの粉末なんて使うんだーとかちょっと感動してた。メレンゲやバタークリームもちょこちょこ味見させてもらって、完成してからはもう自分が海原雄山にでもなったつもりで真剣に味わってみた。
食べるときカレシが不安そうにあたしを見てたから、美味しいよって言ってあげたら「まえに作ったときも、川村だけは美味しそうに食べてくれたもんな」ってホッとしたように笑った。「たぶんおれ、あのときからおまえのこと好きになってたのかもしれない」だってさ。ゲンキンなやつ。でもあたしもおなじタイミングでカレシのこと好きになったんだし、こういう馴れそめってのもアリかなって、ちょっと納得した。
それからずっと、ケンカしたり仲直りしたりで今日までしぶとく付き合いつづけてる。あたしはなんとなく地元の女子大へ進学したけど、カレシは夢をかなえるために調理の専門学校へと進んだ。けっこう成績良かったから親にも大学行けって反対されたらしいけど、ホント勇気あるなあって感心しちゃう。家出同然で安アパート借りて、ゴハンも良いもん食べてなかったみたいで、たまにあたしが食材差し入れてあげるとすごくはりきって料理してた。
最初のクリスマスのときは二人ともまだ高校生だったから昼間のうちにデートしてプレゼント交換しただけで終わったけど、卒業してからは気合い入れて外食するようになった。ホテルは混むからって最後はカレシの部屋に泊まるのが定番。ちっちゃなツリー点灯させて、手作りのケーキはさんで、ワインで乾杯。「いっせーのーせ」でたがいにプレゼントを見せ合う。
そんなささやかだけど思い出に残るクリスマスをこれまで三度過ごしてきて、それでつまり、今日が付き合いはじめて四回目のイヴってわけなのですよ。クスン。
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作品名:くたばれサンタクロース! 作家名:Joe le 卓司