スーパーソウルズ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「きょう、僕は・・・」
裕司が話し始めたとき突然、舞台下から怒号が飛んできた。
「お前の話なんか聞きたくねえわ! 早く姫君を出せ!」
カツだった。
カツは遊び仲間のトンボとともに
「ひっこめ、裕司!」
「姫君を出せ!」
とヤジを連発した。
カツが裕司にツバを吐きかけようとしたが、届かない。
怒りに任せて、カツが次に手に持っていたビール缶を裕司に向かって投げつけようとしたとき、ステージ上の裕司が頭を抱えてうずくまった。
両手で耳を押さえると、何かに耐えるようにぎゅっと目を閉じた。
振りかぶったカツの腕が停まった。
カツの頭上に振りあげたビール缶の口から、カツの頭頂に白い泡を含んだ黄金色の液体が流れ落ちた。
それは身動きがままならないカツの頭上から四方に広がり、カツの顔にも滴ってきた。
カツは腕をあげた態勢のまま、目の端で横にいるトンボを睨んだ。
「何してくれてるんだよ、トンボ」
トンボは驚いて、大仰に否定した。
「俺は何も・・・。カツさんが自分で・・・」
「うるせぇ!」
カツは空いたほうの腕でトンボを殴りつけようとしたが、トンボがカツの拳を手のひらで受けた。
と同時に、トンボはカツの顎に強烈なパンチを喰らわした。
カツは目を回してぶっ倒れた。
「カツさん!」と呼びかけながら、トンボは自分の両手を見て不思議がった。
この騒動には学園祭実行委員会も黙殺ではいられなかった。
学祭のスタッフ総動員でカツを運びだし、トンボを会場から連れだした。
裕司はそっと目を開いた。
しゃがんだままマイクを握って、ぽつぽつと語り始めた。
「頭の中で声が聞こえるんです。おかしいでしょ。でも本当なんです。
ワレハワレノミデハナイ。ワレワレガテヲトリアウトキ、ソレハシンパンノトキデアル。
呪文のように、念仏のように繰り返し、聞こえてくるんです。
ユアトさんに尋ねました。
そしたらそれは、ジュノックがチェザルモに呼びかけている声だと。ゼーレの結集を呼びかけているのだと。
ユーチューブ動画見て、ユアトさんの話聞いて、何とか理解しようとしましたが、全然理解できなくて・・・。ゼーレとかチェザルモとか自分事じゃない」
裕司は立ちあがって続けた。
「ただひとつ、わかったことがあります。
きょう、僕は大事な友だちを亡くしました。
夜の街でチンピラに、何も悪いことしてないのに、何の前触れもなく殺されたのです。
あんないい奴が17歳で死んでいいわけがない!
なんでみんないがみ合う?
なんでみんな殺し合う?
手を取り合うべきなのは僕たちのほうじゃないのか?!
ひどい世界に生きている。
誰も気づいていない」
ステージ上に、超科研の4人と姫君4人が表れた。
真凛は裕司に向いて膝をついて正座した。
そして両手をついて頭をさげた。
裕司はマイクを床に置いて呟いた。
「もう、うんざりだ・・・」
その瞬間、建物が小刻みに揺れた。
地鳴りがした。
天窓にひびが入り、パラパラとガラス片が落ちてきた。
フロアの観客たちは、ガラス片の落下を避け逃げ惑った。
大きなガラス片とともに、黒い鳥が落下してきた。
それを見た観客たちは、一様に気味悪がって遠巻きにした。
裕司はステージから、その観客たちのいるフロアへおりた。
観客たちは、裕司のために道を開けた。
その道はガラス片が散らばる空間に続いていた。
人垣が環状に広がった空間の真ん中に、血まみれの黒い鳥が横たわっていた。
ピクリとも動かなかった。
裕司は死んだ黒い鳥の横に立ち、天窓を見あげた。
四角い窓の向こうは、眩しいほどの真っ青な空だった。