スーパーソウルズ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
益岡大臣が閣僚会議出席のため退院を早めたという報せを受けて、病院前には多数の報道陣が参集していた。
記者やカメラマンが鈴なりに連なる中を、一台の高級乗用車が悠然と病院の地下入口に入っていった。
大臣を病院から総理官邸に送り届けるための迎車であることは、ほとんどの記者たちは気づいていた。
大臣本人を乗せて出てくるところを捕まえて、政局絡みの言質をとる。
記者たちは益岡の一挙一動に前のめりになって身構えた。
一方、益岡は病室のソファに腰かけ、タバコを吹かし来客を待っていた。
高級ホテルと見紛うような豪奢な病室である。
「お見えになりました」
廊下にいたSPが半開きになったドア越しに、病室内にいる秘書官の磯部に耳打ちした。
「通したまえ」
病室の扉を押し開いて、ユアトが病室に足を踏み入れた。
ベラスケスの額縁が飾られ高価な調度類に囲まれた立派な設えの病室に、ユアトは面喰った。
ユアトはドアの前で益岡に挨拶した。
「益岡先生、お久しぶりです」
仕立ての良い高級なスーツに着替えていた益岡は、立ち上がってユアトを出迎えた。
「おお、憶えていてくれたか。それは嬉しい」
益岡は懐かしいものを見る笑顔を浮かべて言った。
「湯浅智樹くん。いや今はユアトくんと呼んだほうがいいのかな」
「どちらでも」
「では、ユアトくんと呼ばせてもらおう」
磯部が場を察して、無言で病室から立ち去った。
「何年ぶりかね?」
「911のときですから、もう18年に」
「そんなになるか・・・」
「その節はありがとうございました」
「ユアトくん、君はまだこんな小さな子どもだった」
益岡は腰の位置に手をやった。
「父の葬儀に来ていただいた方のお顔は忘れません」
「まさか、あの飛行機に乗っておられとは・・・。不運だったとか言いようがない」
益岡は顔を曇らせて窓の外を眺めた。
「しかしユアトくん。きょうはよく来てくれた」
「いや私のほうこそ、入院中、お見舞いにも来ず・・・」
「たいした怪我じゃないから、構わんよ。ところでユアトくん。君、最近ネットで人気者になっているそうじゃないか」
「あれは、ほんのお遊びです」
「ゼーレのことは誰から?」
「数年前、父の書斎を整理しているときに偶然アシュロフ博士の本を見つけて。それから自分なりにいろいろと・・・」
「さすがプロフェッサー・ユアサの息子。そこで尋ねたいのだが・・・」
益岡はひと呼吸置いた。
窓辺に近寄り、空を見あげた。
十数羽のカラスが飛んでいる。
その数は見る見る増え、空を覆い隠すほどの数になった。