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スーパーソウルズ

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右足の腫れが治まってきた頃を見計らって、裕司は物置小屋の周囲で歩く練習を始めた。
丈夫な枝を杖代わりにして、右足を浮かせて歩いた。
歩行訓練には、必ずジローが寄り添い見守った。
危険が迫ればジローが教えてくれる。
ジローがいる安心感で、リハビリは予想以上にはかどった。
数日後には、引きずりながらも痛む右足を地面につけて歩けるようになった。
物置小屋は窓がない。
蒸し暑く、引き戸を開けても、もわっとした空気が滞留した。
短時間の緊急避難所には向いているが、長く留まるには不向きだった。
裕司は物置小屋より快適に過ごせる場所を求めて、周辺を探し歩いた。
その最中、空を横切る機影を何度か見かけた。
はるか上空を飛ぶ旅客機のようだった。
手を振って助けを呼ぶには、あまりに遠すぎて、ただ見送るしかなかった。
新居を探し始めて数日後、裕司は物置小屋から数百メートル離れた小高い丘の斜面に洞穴を見つけた。
塹壕のような狭い間口だった。
けれども、成人男子が隠れる十分な大きさではあった。
中を覗きこむと、人が住みついていた形跡が感じられた。
壁面が棚状に削られていた。
欠けた陶器のかけらが落ちていた。
人里離れた山奥にある洞穴。
かつての住人は平家の落人か、追われて山に逃げのびた罪人か。
裕司は恐る恐る洞穴の中に入ってみた。
前屈みになって歩く。
胡坐を組んで座ると、頭上にかろうじて空間ができる高さ。
壁面は天井までしっかり固められていて、多少のことでは崩れる心配はなさそうだった。
足を伸ばして眠れる平らなスペースもあった。
嫌な湿気や匂いは感じない。
洞穴の奥はさらに真っ暗な闇が続いていた。
奥への探索は興味がそそられたが、足の具合を考え断念した。
洞穴は物置小屋と違って自然の風が入り、空が十分に見えた。
斜面の勾配はのぼるのに難儀する反面、その分見通しがきく。
洞穴の入り口を塞ぐことさえができれば、外敵からの侵入も防げるだろう。
物置小屋の鈍色の屋根が、緑の樹林の先にしっかり見える。
熊の猛攻に耐えたシェルターがあるのは心強い。
裕司は、ジローを洞穴に呼び寄せた。
「悪くない」
裕司とジローは並んで洞穴に腰を落ち着けた。
「ここなら誰か助けにきてくれたらわかる。足がよくなるまでここにするか」


作品名:スーパーソウルズ 作家名:椿じゅん