スーパーソウルズ
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敦木町駅前の交差点を歩いていた。
横断歩道の中ほどにさしかかったとき、道路の向こうからシルバーのベンツが、尋常ではない速度で交差点に突っ込んでくるのが見えた。
運転者は隣の席の女性に顔を真横に向けて何か話しかけている。
裕司は一瞬足がすくんだ。
裕司のすぐ脇を、子どもを乗せた自転車が通りすぎた。
次の瞬間、金属の衝撃音とともに自転車と母子が宙に舞った。
その巻き添えを喰って、裕司は車道端の植え込みに弾きとばされた。
自転車を撥ねたベンツは、十字路で右折待ちしていた大型バイクをかすめ、交差点に進入してきた路線バスと衝突した。
大型バイクは反対車線に逃げたが、走ってきたタクシーをよけきれず、タクシーの後部下にめり込んだ。
急停車したタクシーに、後続のトラックが追突。荷台の古紙が交差点に散乱する。
路線バスに衝突したベンツは、スピンして交差点に面した花屋の店先で停車し、ボンネットから白煙をあげた。
タクシーの下部から液体が漏れだす。
バイクの計器類の配線コードが火花を散らす。
次々に引き起こされる事故。
悲鳴と怒号が敦木町駅前交差点に渦巻くなか、植え込みに倒れた裕司は戦慄に身が震えた。
ベンツの運転席から見た母子が宙に舞う光景。
地面をスライディングしてタクシーにぶつかる衝撃。
目の前にあらぬ方向から突然現れた外車がぶつかる衝撃に身構える路線バスの運転者の視線。
倒れたバイクを車体の下にめり込ませているタクシーに、後方からトラックが迫り衝突する瞬間。
それぞれの運転者の視点が、いっきに裕司の海馬に流れこんできたのだ。
バイクのケーブルの火花が、揮発するガソリンに触れた。
瞬く間に炎が燃え広がる。
無数のかけらが飛散する爆風と轟音。
裕司はハッと目を開いた。
顔から手から、全身から汗が吹き出ていた。
あたりを見回す。スチール製の屋根と壁。
胸のあたりに、温かいものを感じる。
ジローが心配そうな目をして、裕司にぴったり寄り添っていた。
ごくりと唾を飲みこみ、裕司はジローの頭を撫でた。
「怖い夢を見た。大丈夫、心配ない」