スーパーソウルズ
警官の誤射によって被弾した老婆が亡くなった。
敦木警察署は対応に追われた。
イノシシへの発砲が本当に適正だったか、あらためて市民に釈明する必要があった。
市民の声を受けて新聞社やテレビ局は、敦木警察署長の記者会見を要求する。
放置すれば風当たりが強くなるばかりだ。
ここは何としても、イノシシを絶対悪にしなければならない。
敦木警察署は敦木市役所環境局と協力して、イノシシ暴走の原因究明に動いた。
まず狂犬病か、それに類似する伝染病が疑われた。
30余頭すべてのイノシシについて、慎重な検分が行われた。
しかしどのイノシシからも、原因と思われるウィルスや寄生虫は発見されなかった。
血液や脳を含む臓器にも、異常は認められなかった。
山中に餌となる食物が不足したことが理由で、イノシシが里におりてくることはあっても、群れをなして市街地を襲うだろうか。
過去にも海外にも、そういった事例がない。
原因究明を託された近郊の大学獣医学部教授たちは途方に暮れた。
無理やり捻りだされたパニック集団ヒステリー説は、良識ある教授たちによって否定された。
腑に落ちる原因が見つからなかった。
中間報告すら出せないまま、時だけが過ぎた。
SNSでは、俄か評論家らが様々な意見を出し合った。
新種の未知のウィルス、目に見えない寄生虫、宇宙人による遠隔操作。
どれも厨二病レベルの妄想の産物ばかりである。
終末思想を持ちだす者もいた。
YouTubeでユアトが提唱したゼーレが怪しいという声も、ネット上では少なからずあった。
いずれにしろ敦木警察署は、公式な見解を示す時期に迫られていた。