スーパーソウルズ
地面に倒れた警官たちを踏み越えて、十数頭のイノシシが益岡の車列に襲いかかった。
銃弾が飛び交う。
血しぶきが舞う。
咆哮や叫び声がかき消されるほど、銃声が鳴りやまない。
次々とイノシシの死体が積みあがる。
恩場の交差点は血の海に染まりつつあった。
ようやく現場に到着した大下巡査は、その光景に言葉を失った。
拳銃のグリップを握りしめたまま、何もできなかった。
恩場の現場にいたイノシシは一頭残らず射殺された。
河川敷に逃れた数頭のイノシシも、同日処分された。
市街地において多数の警察官が数十頭の獣に向かって発砲するという前代未聞の捕物劇は、多くの市民の関心事となった。
市民がスマホで撮影した動画や写真は、瞬く間にSNSにアップされ拡散された。
イノシシが大挙して現れた理由。
警察官の発砲の適否。
イノシシは益岡大臣の車列とわかっていて襲ったのか?
地上波、CS、ネットを問わずホットな話題となり、いち地方の出来事が全国民の知れるところとなった。
警察庁は警察官たちの発砲について、適切だったと即座に発表した。
動物愛護団体が警察の対応について批判的な声明を出す。
ニュースバラエティショーのコメンテーターたちも喧しい。
SPの文字通り身体を張った防御のおかげで、益岡大臣は額を車にぶつけたかすり傷で済んだ。
ところが、益岡は重傷を負って入院したと公共放送は伝えた。
政治家益岡に対する世間の印象は良し悪し半々だ。
来るべき総裁選を控えて評判は落としたくない。
警官の発砲した銃弾で、市民に犠牲者がでた。
自分が発砲の命令系統に関わったような誤解が広まれば、命取りになる。
マスコミは要人発言を自在に切り取り、世論誘導を目論む。
諸々のリスクマネジメントの観点から、益岡は応急処置を受けたあと、都内の大学病院に一時身を隠したのである。