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スーパーソウルズ

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  ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


レンの調べで、橋本正次郎の本当の名前はほどなくしてわかった。
千葉県内の農業新聞に、顔写真付きで記事が掲載されていた。
長南町で養鶏場を営む香芝正太郎。
養鶏が仕事であるという情報は正しかった。
長南町郊外の田園地帯を、一台のカローラが走っていた。
運転するのはリョウ。助手席にカモがいて、後部座席にはレンとゆっちん。
レンタカーである。
「会ってもらえるかな?」
「当たって砕けろ、や」
「突撃アポなし」
「となりの晩ご飯か」
「しかしアポとるのに弁護士事務所通して2か月待ちとか、異常やん」
「会いたくないんだろ」
「ユアトって野郎が、しっかりガードしてるみたいだな」
「普通の農家のおじさんやで、香芝って人」
「ところでユアトのほうは、わかりそうか? ゆっちん」
ゆっちんは膝に開いたタブレットのスクリーンキーボードを叩いて反応を待った。
「きたきた」
ゆっちんはタブレットを、レンとカモに見せた。
タブレットには、ユアトがアメリカで取得した運転免許証が映っていた。
「TOMOKI YUASA シアトル在住」
「ゆあさともきでユアト? ダッセー」
「国籍はベリーズ。シアトルとシリコンバレーでIT系の投資会社経営だって」
「本名でいいだろ」
「年収は、・・・十万、百万、千万・・・やめとこ、金持ちや」
「千万円クラスなら普通じゃね?」
「単位はドルや」
「その金持ちがなんでユーチューバーなんかに?」
「やっぱ、遊びかな?」
「金持ちの道楽」
「だったらいいが・・・。こんなことしてユアトに何の得が?」
「だから遊びだって」
「着いたみたいだ」
リョウが減速して言った。
カローラは、周囲を低い丘に囲まれた広大な土地の真ん中に停まった。
道路と敷地は、等間隔に並んだ生木の杭で隔てられていた。
杭と杭の間には、頑丈な鉄条網が三層に張ってあった。
鉄条網の遥か向こう側に、波板の屋根の建物が3棟見える。
「入り口はどこだ? あ、あそこに人が立ってる」
レンは200メートル程先の黒い人影を指さした。
車は再び低速で走りだした。
本線と枝別れして、建物の敷地に続く取り付け道路のようなものがあった。
それとともに、人影もはっきりしてきた。
がっしりした体格の男がふたり、道路脇に立っていた。
敷地に入る道の出入りを守る門番の風体だった。
ふたりとも浅黒い肌、南太平洋のラグビー選手のようないかつい体格、攻撃的な顔つきをしていた。
よく見ると侵入を塞ぐように、取り付け道路の真ん中に、フル装備したシルバーのハマーが鎮座している。
カローラの車内に悲観的な空気が流れた。
「手のこんだ遊びだな」
「ついていけない」
「誰が行くの、これ?」
ゆっちんが手土産に用意した菓子袋を持ち上げた。
千疋屋の高級フルーツゼリーであった。
「一度食べてみたかったんよ」
「だめー」
「効果があるといいが」
そう言いつつ、カモが行くことになった。
菓子袋を手に、カモは意を決して南太平洋に近づき話しかけた。
予想していた通り、木で鼻をくくったような対応だった。
超科研の4人を乗せたカローラは、成果をあげることなく、香芝養鶏場をあとにした。


作品名:スーパーソウルズ 作家名:椿じゅん