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スーパーソウルズ

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  ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「待たせてごめん」
顔の汗をハンカチで拭きながら、ゆっちんが超科研の部室に入ってきた。
重たそうなショルダーバッグを肩から提げていた。
「よー、お疲れ」
「やっときたか」
ゆっちんは部室でくつろぐカモとリョウに軽く手をあげて挨拶した。
レンの姿がなかった。
「あれ、レンは?」
「あいつ、バイトで遅れるってよ」
「そうか」とゆっちんは心の中で舌打ちしたが
「ちょうどよかったわ」
ショルダーバッグをおろすと、中からノートPCを出してテーブルの上に置いた。
「グラフィックに落としこんだんやけど、画面が小さいから、ふたりで見て」
ゆっちんがキーボードを叩くと、ある画像が画面上に表示された。
画面は均等に4分割されたセルで構成されており、左側ふたつが被験者A、右側ふたつが被験者Bとわかるタイトルがつけられていた。
それぞれセルの上段には3本の波形があり、下段には2本の折れ線グラフが映しだされた。
上段3本の波形は上から青、緑、赤に、下段の折れ線グラフは黄色と黒に、各々色が振り分けられている。
「左がAさん、右がBさん。で、上段はMEGの脳磁係数、下段が体温と拍動」
「MEGって、あれか?」
「そう。脳磁図計測器。天根教授は松果体で起こる電磁場の変化をキャッチできる特別なMEGを作りはった」
「ゆっちん、お前・・・」
「ほんまは脳のモデリングでビジュアル化するのが一番なんやろうけど、僕にまだそのテクも時間もない。
そやから馴染みのあるX軸Y軸のグラフに落としこんだ」
「大変だったな」
「ご苦労さん」
「見やすいように、時間を追って動くから」
ゆっちんがディスプレイに触れると、分割画面上段の波形と下段のグラフが左から右へ動きだした。
A画面B画面ともに、右下にそれぞれ100分の1秒単位のタイマーが表示されている。
「コンマ1秒単位で変化を数値化してある」
「上段の3本の意味は?」
「測定する磁場の違いだろうけど、あんまりよくわからんかった」
「AさんとBさん、ずいぶん波形が違うな、3本とも」
「そやろ。まあ普通そうなると思う。赤の他人やから」
「そんなもんか・・・」
「じっくり見てや。13秒あたりで脳波が乱れる。それから17秒あたりでそれは起こる・・・」
「どれどれ?」
「左側Aさんの波形」
カモとリョウは、穏やかに波打つAさんの波形を凝視した。
「あれっ!」
とカモが声をあげた。
「一番上の青いやつがグーンと撥ねた。まだ12.95秒」
「13秒」
「で、だんだんなだらかになって・・・」
「消えた?」
「いや、変化がゼロになったことを示してるだけ」
「15秒」
「16秒」
「17秒」
緑色と赤色の波形は依然としてなめらかな連続曲線を描いていたが、赤い波形が突然乱れた。
一瞬、小刻みに震えるような波形になったかと思うと、上の波形にぶつかるくらい突起し、再び元のなめらかな波形に戻った。
「23秒」
「24秒」
「25秒、26秒」
ゼロになっていた青い波形もいつのまにか息を吹き返していた。
すべての脳波が最初の状態に戻った。
「カモさん、気づいた?」
「えっ?」
「見たよ、波形が揺れるの」
「それだけじゃなくて、Aさんの拍動」
ゆっちんは動画を0秒に戻して言った。
「13.5秒のところで拍動停まってるから」
「停まるって、どういうこと?」
動画が再生された。
00.00から13.52秒まで、拍動を示すグラフは、ドクッドクッと音が聞こえるような規則的な形状を保っていた。
しかし13.53秒のところで波形は急にフラットになった。
「14秒、15秒・・・」
「心臓が停まってる・・・?」
カモが呟く。リョウは絶句した。
時計が23秒を刻んだところで再び拍動のグラフが動き始めた。
ふっと溜息を吐いてリョウが言った。
「心臓が停まるってことは死ぬということですよね、カモさん」
「仮死状態にしたっていうことか・・・」
「カモさん、リョウも今度は注意を右側Bさんにも向けて、もう一度見てみて」
ゆっちんは、再度動画を00.00から再生した。
「右側のBさんは心臓停まってないよね」
13秒以降も被験者Bの拍動は規則性を保っていた。
「青い脳波の乱れもない。ただ17.08秒のところ」
分割画面双方に、流れるように動く波形をカモとリョウはじっと見つめた。
「あっ!」とふたりが唾を飲みこんだ。
ゆっちんは素早く動画を停めた。
「同じか・・・?」
「少し戻すよ」
ゆっちんはマウスを操ってタイマーが17.08の画面に戻した。
「赤色の波形の乱れがAさんBさんともにあらわれる」
100分の1秒単位で再生する。
「これは・・・」
「AさんとBさんの波形が・・・」
「約0.1秒同じ・・・」
「そう、17.08から17.16までの間。100分の8秒間、AさんとBさんの赤い波形がまったく同じ形に、つまり同期している」
「そのあとはまたふたり、元の不規則な波形に戻っている」
「その間、Aさんは心停止している・・・」
「どういうことだ?」
カモはノートPCの画面を見つめて考えを巡らせた。
「同期してトランスする。きっとそれを証明したかったんやろうと・・・」
ゆっちんが言った。
「これはひどい・・・。ひどすぎる・・・」
リョウが壁に向かって独りごちた。
振りむくなり、憤った顔をゆっちんに向けた。
「心臓を10秒間停めて、もしそのまま戻らなかったら、Aさんは死んでた」
「うん、僕もそう思う」
「人が死ぬ危険を冒してまでやる実験なのか!」
「リョウ、落ち着け。ゆっちんに怒ったってしかたない」
カモがリョウをなだめた。
ゆっちんのくしゃっとなった顔を見て、我に帰ったリョウは
「すまん」
と頭を下げて、そのままうなだれた。
カモは吐息をついて、リョウの肩に手を置き、ゆっちんに言った。
「ありがとう、ゆっちん」
「アニメ用のソフトなんで、苦労したっす」
「これで佐伯先輩が何を、なぜ隠していたのかよくわかった」
「大学側が実験を許可しなかった理由も」

リズミカルなノックの音がして、レンが顔を覗かせた。
「やぁ、みんなー! 見た?」
レンは、部室内にただならぬ空気が流れているのを感じとったが、お構いなく自分の定位置である破れたソファに腰を落ちつけた。
「見てないの?」
カモたちは、頭の上に大きなクエスチョンマークを浮かべてレンの動きを追った。
「何を?」
「えーっ、ライン送ったのに」
「そうか、ごめん。今、ゆっちんが作ったの見てた」
「えっ、ゆっちん、またロリエロアニメ?」
「違わい!」
ゆっちんが頬を膨らませた。
「佐伯先輩のな、あれ」
カモがゆっちんの言葉を継いだ。
「レン、ラインは何?」
「ユーチューブ」
「ユーチューブ?」
「ユアト。見てないの?」


作品名:スーパーソウルズ 作家名:椿じゅん