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スーパーソウルズ

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#4.超科研



灌北大学 超科学研究会部室

「で、今年は何をやるか、皆考えてきてくれたんだろうな」
灌北大学3年生のカモは、リョウ、ゆっちん、レン3人の2年生部員の顔をまじまじと眺めた。
狭い部室は、夏の名残の熱気で蒸していた。
いわゆるボックスと呼ばれる空調設備のない3畳ほどの小部屋だ。
暑さに滅入っているのか、リョウたち2年生部員らは、成人雑誌を読んだりゲームをしたりして脱力モード。
超常現象や都市伝説を科学的に解明することを旨とする灌北大学超科学研究会は、設立されてから20年目の節目を迎えていた。
毎年面白い企画で学園祭を盛りあげてきたが、近年はマンネリ化してきて高評価を得ていない。
そのせいか1年生の新入部員が入らず、部員数は先細り。
消滅の危機に直面して、部長のカモは心を痛めているが、2年生3人には危機感の微塵もない。
「ええーと、去年は何やったんでしたっけ?」
レンが気だるい声で部長のカモに尋ねた。
リョウが手垢で汚れたファイルを繰った。
過去の学園祭の企画書を束ねたA4のファイルだった。
リョウが去年の記録を見つける前にカモが答えた。
「去年はアレだ。パワースポットに行って」
「あ、そうでした」
レンが思いだして付け加えた。
「ご神木に4人で抱きついてる写真、あれ大不評でしたね」
「パワーをもらってることが伝わらなかった」
「おととしは」
とリョウがファイルを見ながら口を挟む。
「心霊写真を科学する。オーブの撮影に挑戦しよう。あとはUMA目撃情報の真相とか、巨石遺構の謎とか、テレポーテイション。いろいろやってきたんだな、わが超科研」
「学長賞をもらった年もある」
「真面目にやってたんだなぁ・・・」
「20年の歴史は重い」
「よく続いてるよ」
「記念の20年目だ。それに相応しい企画がいい」
「バズるやつやな」
「そうだ。で、皆の意見は?」
カモの問いかけに、2年生3人は急に口をつぐんだ。
リョウからファイルを受け取って、ゆっちんが漸く言った。
「もうネタ切れでやることないやん」
「面白いことはみんなネットでバスってる」
「確かに選択肢は少ないが、世の中にはまだまだ不可思議なことがあるだろうが」
「例えば?」
「例えばだな・・・」
カモの口が動きかけたとき、部室のドアを短く叩く音がした。
「ん?」
4人の目と耳がドアに注がれた。
しばらく待ったが、ノックの音もドアノブが動く気配もなかった。
カモは咳払いをして「例えばだな・・・」
ドアの外で声がした。
「あの・・・、すみません」
か細い女性の声だった。
リョウは慌ててシャツの前ボタンを閉じた。
レンは座り直して、表情を引き締めた。
カモは「誰?誰?」と訊きまわるゆっちんに、テーブルに開いた成人誌を片付けるよう促した。
「どちら様ですか? よかったらどうぞ」
カモがやや上ずった声で言った。
ドアが細く開いた。
「おじゃまします」
ドアを押し開けて、小柄な女子大生が超科研の部室に足を踏み入れた。
「はじめまして、佐伯多香子といいます」

多香子はカモたちに、自分が灌北大学に入学したばかりの1年生であることと、8歳年上の兄・佐伯道雄の略歴を短く告げた。
多香子の話によると、道雄は灌北大学の出身で、卒業した後に天根与志郎という脳科学者の研究室に進み、そこを退職した翌年に事故死したという。
曖昧な記憶と前置きしながらも、道雄が在学中に超科研にいたようだと付け加えた。
「確かに・・・」
と、リョウが部の歴史を綴った資料に書かれている名前を指さしながら、眦をあげた。
「2013年の資料に超科研代表工学部3年佐伯道雄とある」
「ということは超科研大先輩の妹さん・・・?」
カモを筆頭に、2年生部員たちは丁重に多香子に挨拶した。
「幼い頃はすごく仲のいい兄妹で・・・」
汗臭い部室の粗末なソファに腰かけた多香子は、ポケットから鉛色の小袋を取り出した。
「これなんですけど・・・」
その小袋の中身は、親指大のSDカードだった。
「鍵がかかってて・・・。何度も捨ててしまおうと思ったんですけど・・・」
「何ですか、それ?」
「兄の遺品です」
「えっ?」
「ええ、もう3年前になります・・・」
「それはなんというか、お気の毒さまというか・・・」
多香子はそのSDカードの来歴を、超科研部員たちに手短かに話した。
「でもさ、ブレザーのボタンホールの下に縫いこんであったんでしょ。よっぽど大事なものじゃん?」
リョウとゆっちんは多香子からSDカードを受け取り、手の上に乗せた。
「しかもこれチタンフィルムのケースだよね。衝撃に強い」
「中身はただのエロ画像ではなさそう(笑)」
「ゆっちん」
カモが、ゆっちんをたしなめる。
「ごめん」
「あ、そういう類のものだったら消去してください。そういうのだけだったら・・・」
多香子が顔を赤らめながら言う。
「いや、院の研究室で研究とか、すごいですよ」
カモが不謹慎な空気を慌てて打ち消した。
「いえ、ただの助手です」
「だとしても・・・。でその、なんでしたっけ、あまね・・・?」
「天根ラボ」
「その天根ラボでの特殊な実験が行われた。ちなみにどんな実験だったんでしょう?」
「それは妹の私にも教えてくれませんでした。とにかく,世間が驚くとしか・・・」
「実験は成功してたんでしょ?」
「はい、多分」
「ところが実験データは闇に葬られた。いったいなぜ大学側は・・・」
「わかりません」
「その実験データは、大学にとっても重要なはずなんだけど・・・」
「ただ没収されただけじゃなく、実験室は取り壊され研究室も閉鎖されたそうです」
「ひどい話だなぁ」
「兄はしばらく実家に戻っていましたが、酷く落ち込んだりイライラしたりして・・・」
「わかるなぁ」
「なんでやねん」
「しかし、実験データはすべて消されたわけではなかった・・・」
カモは推量を巡らせながら、リョウの手のひらにあるSDカードを見つめた。
「お兄さんは不幸にも運転中の事故で亡くなられた。多香子さんはその交通事故とSDカードに関係があると?」
多香子は小さく頷いた。
「本当に単なる衝突事故だったのか、今も疑問に思っています」
「警察は自分らに都合のいい結論しか出さんからな。信用できん!」
「お兄さんは生前SDカードのこと何か言ってました?」
多香子は首を横に振った。
「だよねぇ。実験の概要も教えてもらえないんだから」
カモは頭の中を整理するかのように独りごとを呟いた。
「とにかく、その実験データというか、その実験そのものに価値があり、かつその結果は世間を驚かせるものだった」
「にもかかわらずその成果を研究者から取り上げた」
「よっぽど公表されてはまずいものやったか」
「実験に倫理的な問題があって、そこをマスコミとかに問題視されることを恐れたか」
「実験データは消され、実験そのものも抹殺された」
「研究室は閉鎖。教授は左遷。お兄さんも大学にいられなくなった」
「しかし、密かにお兄さんはその実験データを隠し持っていた」
「持っていることさえ危険なデータやった。がゆえに、それを知った何者かによって・・・」
リョウは手のひらに乗せていたSDカードをテーブルに放り投げた。
作品名:スーパーソウルズ 作家名:椿じゅん