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スーパーソウルズ

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  ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「ユアト_セカンドインパクト_2.5です」

ユアトは白い歯を見せて照れ隠しに笑った。

「皆さんからコメントやメッセージをたくさん頂きました。
今回は特別にそのお礼の回ということで、2.5」

道路に面した小洒落たカフェの店内のような空間だった。
ユアトは木製の椅子に腰かけてテーブルに肘をついていた。
ユアトのYouTube動画3回目は、アシュロフ博士の著書の紹介から2日もたたないうちにアップされた。

「ゼーレ_ファーストインパクトを公開したあと、賛否両論多数の反響を頂きました。
ありがとうございます。
いかにもアンチなものはスルーしますね。
中には橋本さんと同じような経験を持つ本人や親御さんからのものもありました。
日本国内だけでなく海外からも。
きょうは、その中からひと組の親子をお招きしました。
お母様のお話だと、5歳のお子様がまったく他人の子どもの生まれ変わりだと主張しているそうです。
嘘や作り話とは思えない、真偽を確かめたいというお母様からの相談を取りあげます。
橋本さんの場合、お仕事に差し支えるので仮名にしましたが、今回は個人ですので顔出し実名です。
皆さんに素の表情をご覧いただいて真偽を判断していただきたいからです。
それとどれだけ隠しても情報漏洩社会では個人の特定は時間の問題ですから。
お母様に登場していただきます」

30歳代の細身で清楚な女性が画角に入ってきた。
ユアトに勧められて、ユアトの向かいの椅子に着席した。

「お名前を」
「黒田佳穂です」
「お年は?」
「36歳」
「私が聞いた話を、今一度お願いしていいですか?」
「はい」

佳穂はひとつ咳払いをして、話し始めた。

「生まれたときは普通のかわいい赤ちゃんでした。
言葉を覚え始めた3歳のころでしょうか。
それまでママ、ママと言ってたのが急にお母さんと言うようになって。
どうしたの、ママよ、って言うと、私の顔を見て、お母さんじゃないって泣きだしたんです。
クローゼットに閉じこもって泣き続けるものですから、出てきなさいって言っても、お母さんに会いたいって。
保育園に連れていけば、そこでは機嫌よくお友達と遊ぶんですけど、家に帰ってきたら、また泣きだして。
そんなことが1か月続いたでしょうか。
心配になってお医者さんに診てもらったんですけど、原因がわからないと。
私、もう訳がわからなくなって、自分の子にあなたは誰って訊いたんです。
そしたら、僕はミズモリコウキだ、っていうんです。8歳だと。
そのときヒロトまだ4歳でした。
ミズモリコウキなんて子の名前聞いたことも見たこともなくて。
でも何度も自分はコウキだ、お母さんに会いたいと言って聞きません。
いくらなだめても泣き続ける自分の子を見て、私も泣きました。
あるとき鏡台に向かってこの子がへんなダンスをしていました。
どうしたの?と訊くと、お母さんに教えてもらった。練習してる、と。
私はダンスなんて全然できない人で、教えた覚えもありません。
自分の子なのに、まるで他人の子を預かっているような日々でした。
大学病院のお医者さんが、半年も経てば自然に元のお子さんに戻るから、と言われました。
でもそれから1年経っても、コウキだと主張し私になつかない。
家事も育児もできなくて、ノイローゼになりそうでした。
最近になって、ヒロトがこんなことを言うようになって・・・。
お父さんとお母さんと川に遊びに行って、僕、川で溺れたんだ。流されて、その後憶えていない、と。
電気が走りました。
正直に言います。どうにかしてました。
まさかと思いつつ、近所のお寺の住職にお願いして、お祓いをしていただいたんです。
死んだ他所の子の霊が憑いてるんじゃないかと。
その日はおとなしくしていました。
でも翌朝見たら、鏡の前でまた踊っているんです、ヒロト。
何もかもが崩れて、谷底に突き落とされた気分でした。
そんな折に、ユアトさんの動画に出会って・・・」

佳穂はいったん話すのを止めて、ユアトを見つめた。
ユアトは優しく微笑んだ。

「黒田さん、辛い経験をお話しいただき、ありがとうございます。
この続きは私から話しましょう。
ヒロトくんとは別に、ミズモリコウキという少年が本当にいるのか。
皆さん気になりますよね。私も気になりました。
で、ヒロトくんから話を聞いて、場所を特定しました。
茨城県稲敷市です。
そこに水森コウキという8歳の少年が実在して、いました。
これからご覧いただく映像は、佳穂さんと黒田ヒロトくんが水森家を訪れたときのものです。
カメラを廻しているのは私です」

YouTube動画の画面がカフェから、関東平野を移動する車中に切り替わった。

ヒロトが車の窓に顔を近づけて言う。
「ほら、僕が言った通りでしょ。大きなお姉さん」
それは、牛久大仏だった。
「背の高い山も見える」
筑波山。
「ひこーきがたくさん」
成田空港を離発着する旅客機の機影。
「煙突のあるお家を曲がると僕の家が見えるよ」
車が製煉所の建物の角を曲がると、築50年は経つであろう平屋の一軒家が正面に見えてきた。
「あそこが僕の家」
車は平屋の前で停まった。
ヒロトがシートベルトを外そうとするのを、佳穂が抑えた。
「まだよ、まだ車にいなさい」
ヒロトはぐずったが、逸る心を楽しむかのように目を輝かせた。
「ちょっと、待っててね」
ユアトはそう言ってカメラの映像を停止し、車から降りた。
三脚にカメラを据え、水森家の玄関が映るように固定すると、ユアトは再び撮影ボタンを押した。
水森家の玄関に向かうユアトの後ろ姿が映る。
玄関から現れたのは、水森コウキの母・水森妙子。
ユアトと妙子は玄関先で挨拶を交わした。
ユアトが口を開くと、妙子は眉間に皺を寄せた。
その様子を窓から見ていたヒロトが車から飛び出してきた。
佳穂がヒロトを抑えきれなかった。
「お母さーん!」
勢いよく走ってくるヒロトを、両手を広げてユアトが制止した。
それでもなお
「ただいまっ! あ母さーん!、お母さーん!」
ユアトはヒロトを抱きかかえた。
ヒロトはユアトの腕の中で暴れた。
妙子は顔を曇らせて、家屋の中に消えた。
画面が替わった。
水森家のリビングルーム。
電源を落としたテレビの前で、ヒロトが踊っていた。
妙子に見てもらいたいがために何度も
「いっぱい練習したんだよ。ほら見て」
妙子は麻暖簾のかかったキッチンの柱にもたれて、複雑な表情でヒロトを見ている。
「ストップアンドゴー、できるようになったよ」
ヒロトは一心不乱にヒップホップを踊る。
「お母さん、カズヤ来てる? しばらく会ってないけど」
「カズヤって誰?」
ユアトの声が尋ねる。
「ダンススクールのお友達です」
と、妙子が小声で答えた。
ヒロトは踊りながら
「同じチームなんだ。シンちゃんも、コジローも」
妙子が頷いた。微笑む瞳に涙が滲んだ。
「4人で優勝するんだ。ねえお母さん、コンテストに優勝したら。アカネ先生喜んでくれるかな」
生前コウキがよく言っていた言葉を耳にした妙子は、嗚咽が漏れそうになり口元を手で押えた。
溢れでた涙が幾重にも頬を流れ落ちた。
作品名:スーパーソウルズ 作家名:椿じゅん