スーパーソウルズ
荷台の古紙が交差点に散乱する。
路線バスと側面衝突したベンツは、スピンして交差点に面した花屋の店先で停車し、ボンネットから白煙をあげる。
タクシーの下部から液体が漏れだす。バイクの計器類の配線コードが火花を散らす。
ほどなくしてタクシーとバイクの接点から火の手があがる。
「3か月前、神奈川県で起きた事故の映像です。
車4台にバイクと自転車が絡む大きな交通事故でしたが、幸い死者が出なかったのでローカルニュース止まりでした。
この事故にゼーレが関係している、と私ユアトは考えます。
説明しますね。この事故には大きな特徴があります。ブレーキ痕がないのです。
つまり車を運転していた者が、誰もブレーキペダルを踏んでない。
低速走行の場合はブレーキを踏んでもタイヤ痕がつかないことがあるという警察の見立てですが、低速なら少なくとも回避行動をとるはず。
ベンツはある程度のスピードを出していました。
徐行ではない。それでも、直前に横断歩道を渡る自転車の母子に気づくことはできたでしょう。
急ブレーキをかけるなりハンドルを切るなどして対処する時間はあった。
でもベンツは、直進し速度を落とすことはなかった。
ゼーレはヒトの生存本能と結びついて、”存在”を守る性質があります。
それが過度に働いたとき、またはゼーレとヒトの関係性が未成熟であったとき、しばしば予期しない結果を招くことがある。
このことは、チェザルモをひどく混乱に陥れます。ステージでいうと、ギルス。
ゼーレは”存在”を維持継続せんがために、生存の危機に直面したとき、ヒトの脳深部に働きかけてヒトの行動に影響を与えます。
それができない、または不十分なときは、目の前の相手にトランスを試みることがあります。
相手の行動を抑制することよって危機回避することが目的。
これができるのは博士の説では、ギルス以上らしいですが、混乱期のギルスなので、試みて相手の意識に入りこんだはいいが、
何をしていいかわからない。
ベンツからバスの運転手に、バスからバイクのライダーにトランスする。
そしてタクシー、トラックドライバーへと、混乱したままトランスを繰り返し、それぞれの運転者にブレーキを踏む機会を失わせた。
これがこの多重交通事故の顛末です。
ではこの映像の中で、いったい誰がギルスステージのゼーレを持つチェザルモなのでしょう?」