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スーパーソウルズ

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#3.ユアト




日々膨大な数の動画がYouTubeにアップされる。
個人の趣味から企業の広告、ライブ動画などジャンルは様々、百花繚乱。
クオリティや収録時間も千差万別である。
そんな中、ひとつの動画がYouTubeにアップされた。

”ゼーレ_ファーストインパクト”

それが動画のタイトルだった。
その動画の主は、鼻にかかる張りのある声で語り始めた。

「ゼーレが分かれば未来がわかる。ゼーレが見えれば世界が変わる。
ゼーレはドイツ語で”魂”という意味なんですけど、ここでいうゼーレは少し意味が違う。
いや、だいぶ違うかな。それでは”ゼーレ_ファーストインパクト”始めます。
はじめまして。僕、ユーチューバーのユアトです」

ユアトと名乗った人物は紺色のニットキャップを浅く被り、肌つやの良い額を露わにしていた。
目元はサイズの大きい黒縁サングラスで覆われている。
顔立ちは面長で唇は薄い。
白基調のスタジオは、60inch程の黒縁のディスプレイ以外目立って形あるものはない。
ざらついたクロスの壁が照明に照らし出されているだけだ。
仕立ての良い白いシャツをラフに着こなしているユアトは、身振り手振りを加えてさらに続けた。

「ゼーレというのは1984年にオーストリアの理論物理学者オリベール・アシュロフによって提唱されました」

大型モニターに、東欧系の男性のモノクロ写真がアップされた。

「生命というものは誕生と死を繰り返しながら進化していきます。
その中で必然的に発生した知性。その中核をなす自我意識もまた進化します。
自我意識はどこへ向かって進化するのか。
人類の夢のひとつである不老不死もまたそのゴールです。
残念ながら肉体は必ずいつか朽ち果てます。
肉体は朽ちると知りつつも、なお永遠の生命を求め続ける人類。
現代社会において、不死のひとつの手段として生存中に自分の脳のコピーを作り、アンドロイドの頭脳に移殖するという試みがなされています。
ですが、脳のコピーって何? 脳内データをデジタル化し,コンピュータメモリに閉じこめたもの?
ではメモリに閉じ込められたデジタル自我意識がさらに進化し、究極の形態まで進化を遂げればどうなるのか?
その究極の形態まで進化した自我意識こそがゼーレの正体なのだと、アシュロフ博士は説いています。
どこの世界の話でしょうか。
SFですよね。
というわけで当時、ゼーレという学説は科学界から全否定されました。いわゆる、総スカン。
それがきっかけでアシュロフ博士は、社会との交流を一切絶ちました。
晩年は孤独な生活を送り、4年前に病気で亡くなりました。
博士は大学や研究所に籍を置かず、独自で研究されるタイプだったため、博士の研究成果や研究論文はそのほとんどが陽の目を見ることはありませんでした。
アシュロフ博士唯一の著書である”超存在論”は、発行部数も少なく古書店で探すのも困難。
当然のことながらネットで調べても出てきません。
今ご覧いただいているこの動画のタイトルは、ゼーレ_ファーストインパクト。
私ユアトは、アシュロフ博士が研究の対象とされてきたものを全面的に支持する者です。
博士が提唱した”ゼーレ”。
それはたしかに地球上に存在するという立場です。ただそれを、科学的に再現性をもって証明することはできません。
その意味では、幽霊とかUFOに似ています。”信じるか信じないかはあなた次第です”。あれと同じ類です。
あーつまんね、興味ないわという人はウインドウを閉じていただいて結構。
ここまで視聴していただいただけで感謝です。
私ユアトの話に少しでも、もしくは大いに興味あるという人は、今しばらくおつき合いください」

ユアトはピンマイクを手で覆いながら、ペットボトルの水をひと口含んだ。
モニターに、簡略化された人体のイラストが2つ横並びで表示された。

「ゼーレは、というかゼーレ的な存在は、ずっと昔紀元前から近世までしきりに語られてきました。
霊魂といわれたり、霊能力と見られたり、第三の目と表されることもありました。
エスとの対話のエスも、実はゼーレではないか、と私は考えてます。
そういった文脈の中で、おそらくゼーレを持つ人のことだろうと思われる人々を指して”チェザルモ”と表記される文献がいくつ散見されます。
”チェザルモ”。聞きなれない言葉ですが、アシュロフ博士も著書の中で頻繁に使用されてますので、このプログラムでもゼーレを持つ人のことをチェザルモと呼びます」

ユアトはふたつまったく同じように描かれたイラストを指さした。

「このふたつの人体A君とB君のどちらか一方がチェザルモです。
わかりますか? 見分けがつきますか?
つかないでしょう。拡大してみます」

ふたつの人体の頭部が拡大されアップになった。
B君の頭部に極小の赤い点が表れた。

「おや、B君の頭に赤い点がありますね。さらに拡大してみましょう」

B君頭部の赤い点がさらに拡大されると、当りという文字が表れた。

「正解はB君でした。B君がチェザルモでした。正解した方に拍手!」

モニターがふたつ並んだ人体イラストに戻った。

「A君もB君も見た目は変わりません。
B君の頭につけた赤い点はもちろん説明用です。わかりますよね。
実際にはゼーレは赤くもありませんし、人の目には見えるものでもありません。どれだけ拡大しても。
つまりゼーレを持つ人チェザルモと、そうでない人とはまったく見分けがつかない。
私がこのお遊びで伝えたかったことは、そういうことです」

モニターが消えて、全面真っ暗な画面になった、


作品名:スーパーソウルズ 作家名:椿じゅん