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スーパーソウルズ

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五分丈の綿パン姿で、脛をむき出しにした男が、横方向からまともに蹴られて耐えられるものではない。
一瞬、真凛と目が合った男であったが、崩れるように後方に倒れた。
反射的に男を助けようと香織は前のめりなって手を差しだ。
だがしかし、間に合わなかった。
男は、マット運動の後方回転のように通路階段を転げ落ちた。
転落する男を見送りながら、香織はふと座席の陰でおかしな態勢をとっている金髪ボブの女の視線を感じた。
「何やってるんですか、真凛さん」
座席にしがみつくような妙な態勢の真凛に恭一が言った。
真凛は
「いやぁ、足を伸ばそうとしたら、あたっちゃって・・・」
と苦笑う。
階段下では男のもとにショーの係員とトレーナーたちが参集した。
「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」
「大丈夫じゃねぇ」
男は脛や肩のあたりをさすりながら階段の上のほうを指さした。
「あの女だ! 俺を蹴りやがった!」
観客の目が、呆然と立ちつくし階段下を見つめる香織に集まった。
真凛はすかさず香織を隠すように前面に立った。
「俺です!俺がやりました!」
周囲に届く大きな声で真凛が言った。
「階段を踏み外しそうだったので助けようとしたら、つい・・・。ごめんなさい!
二度頭を下げた。
「テメー、このヤロウ!」
男が立ちあがって茶髪を振り乱し階段を上ろうとするのを、係員が引きとめた。
「頭から血が出ています。動かないで」
真凛は振り返って香織にウィンクした。
けれども、香織の表情は当惑の色に染まっていた。
状況を放置し、香織は階段を駆けあがった。
そして次のアトラクションに移動する観客の間をすり抜けた。
通路を走り去る香織を真凛が呼びとめた。
「香織さん! 童門香織さん!」
香織は立ち止まった。
「どうして私の名前を?」
振り向いて真凛に尋ねた。
そのとき、真凛は初めて香織の顔を正面からはっきり見た。
記憶の奥に眠るある女性の面影に瓜二つだと、あらためて思った。
だがそれより香織の左目の下に黒ずんだシミがあることが気になった。
「ああ・・・」真凛は言いよどんだ。
しどろもどろになりながら、話し続けた。
「あの男とは、別れたほうがいい・・・と思う・・・」
「誰、あなた? なんなの?」
「俺は・・・」
と言って間が空いた。
「金井真凛」
「矢沢の元カノかなにか?」
「そんなんじゃない」
「関係ないなら放っておいて」
「君を助けたいんだ」
「あんたに何ができるの? 学生でしょ」
「俺は何もできないけど、俺の友達なら・・・」
「さよなら」
香織はそう言い放って背を向けた。
「聞いてくれ。君は・・・」
「変なことに巻きこまないで!」
香織は足早に真凛の視界から消えた。
真凛は悔しさを噛みしめた。
童門香織との最悪の初対面に、真凛は自己嫌悪の念しかなかった。
「真凛さん」
恭一が真凛に声をかけた。
「キョーイチ」
真凛は恭一の肩にもたれかかった。
「サイテーだな、俺」
「だから言ったでしょ。童門香織はヤバい女だって」
「救ってやりたい」
「諦めましょうよ。彼女には何を言っても通じない」
「助けやりたいんだよ。彼女が七尾ひめに会いさえすればわかる」
「まだ言いますか」
「なぁキョーイチ」
「何ですか、真凛さん」
「ひとつわかったことがある」
「何ですか、わかったことって?」
「男の名前。ヤザワ」
「もう、真凛さん」
恭一は呆れて、溜息しか出なかった。
新・江ノ島水族館に救急車のサイレンが近づいてきた。


作品名:スーパーソウルズ 作家名:椿じゅん