スーパーソウルズ
「山本くん、今の見てどう思った?」
ラップトップの画面を見てひめは恭一に尋ねた。
スタジオスウェイドのルームAで、姫君の4人と恭一は、ユアトのゼーレ・ファーストインパクトを見終わった。
「どうって・・・」
「正直に」
「そう言われても・・・わかりません」
「だから、何がわからないの? キョーイチ」
「ゼーレ・・・?」
「あのぉ、山本くんは、幽霊とかUFOとか信じる人?」
「いや、僕、見えない人だし、UFO見たことないし」
「宇宙人は?」
「それは、宇宙のどこかにいると思うけど・・・どうかな・・・」
「地球上にいるって思ったことはない? 宇宙人」
「ないっす。そう言ってるテレビ見たことあるけど、嘘くさくて・・・」
「このさ、ユアトっていうのも嘘くさい?」
「はい、なんか・・・へん」
「正直でよろしい」
「ところでキョーイチ、僕らが4人とも宇宙人ですって言ったら、キョーイチは信じる?」
「あ、いや、そんな・・・まさか」
恭一は必死で否定した。
「はい、宇宙人ではありません」
「あぁぁ、よかったぁぁ」
恭一は胸を撫でおろした。
「地球人、日本人です。ただし、4人とも・・・」
ひめがそこで間を置いたので、恭一は唾を飲みこんだ。
「チェザルモです。ユアトがいうゼーレを持っています」
恭一に頭に上に無数のクエスチョンマークが現れては消えた。
うららが補足する。
「ゼーレってドイツ語で魂っていう意味だけど、私たちはロックやってるから英語のソウルを使ってる」
「魂?」
「そう、たましい・・・って言いたいところだけど、違うの」
「魂の叫びとか、魂が揺さぶられるとかの魂でしょ」
「ハートの熱い人のことをそう表現する言い方、きらいじゃないけど」
「ちょっと違うの」
「何なんですか、まったくわからない」
「キョーイチは霊魂とか、魂が抜けるとか聞いたことある?」
「あります、うん、あります」
「それって、肉体から魂が離れてる状態だよね」
「はい。あ、人が死んで魂が天に召されるってやつですか」
「それは宗教が過剰に美化したものだけど、本質は近い」
「山本くん、想像して。魂がある。それは人が生まれる前からこの世にあり、死んでからもこの世に存在する」
恭一は目を閉じて、ひめの言葉を頭の中で図式化した。
「魂は人類が地球上に現れるより前に、言えば1億年前からこの地球にある」
「1億年前? それが想像できない」
「じゃあ恐竜時代は?」
「約6000万年前でしたっけ」
「そう」
「だったら、なんとなく・・・」
「その時代には地球上にもうゼーレはあった」
「恐竜にも魂があったということですか?」
「YESでもありNOでもある。ただし恐竜が作りだしたものではない」
「ではゼーレがどうやって生まれたのか」
「わっかりません、ぜんぜん」
「これは推測の域を出ないんだけど、ある研究者の意見によれば、知的生命体が持つ意識の究極の形」
「ちんぷんかんぷん」
「ユアトって野郎が説明してるじゃん」
「私は死があるから生きてる意味があるって思ってるんですけど、一部のお金持ちはやみくもに永遠の生命求めるんです。意識のみになっても」
綾乃がアニメ声で説明する。
「1億年前の地球に人類みたいのがいて究極まで発展した、とは考えにくいですから、発生源は地球外・・・」
「地球外?」
「10万光年以上離れたどこかの惑星が発生源なんじゃないかと言われてるけど、その惑星の寿命が尽きたから移住してきたんだろうな、と」
「ゼーレの形で」
「地球外生命体が地球に引っ越してきたってことですよね」
「地球外は合ってるけど、生命体ではないの」
「そこが謎」
「意識の究極形なの。自ら肉体は持たず肉体を持つ生命体に依存する形を選んだの」
「ボディスナッチャーですか。遊星からの物体Xですか?」
「古い映画を持ってきたね」
「なんですか、遊星からのって?」
と綾乃。
恭一はなぜかその手の洋画をよく観ていた。
「ゼイリブ、インベイジョン」
「出せばいいってもんじゃないよ、キョーイチ」
「ゼーレに敵意はない。地球を侵略しようとか意図もない」
「そもそも感情がありません」
「意識の存在は究極に進化する過程で、他者との間に生じる愛や憎しみなどの感情は無用なものと判断された。きっと。これ推測」
「この宇宙に存在することのみが崇高で、それを妨げるあらゆる要因は容赦なく排除された。進化の過程で」
「朽ちていく有機的な肉体も不用」
「肉体は不用だが、意識の存在を意識するための思考回路は必要」
「伝説ではスカラベというダンゴムシに似た生物の脳を仮の宿主として宇宙を彷徨ったらしい」
「そうして人類がまだ誕生する前の1億年前、地球に降り立ったゼーレは、自身と他者を区別できて自己防衛本能がある生き物にトランスした」
「様々な種類の生き物にトランスしたと想像されます」
「ゼーレは究極の存在で基本不滅だから、宿主の生物が死ぬ前に次の生物にトランスする」
「それを繰り返しながら存在し続ける」
「ゼーレにトランスされた生き物を総称して、チェザルモというんだけど、これは生物全般人間も含まれる」
「ゼーレ視点からみると、ゼーレはチェザルモを変えながら何千万年以上もの間、地球上に存在している。研究者談」
恭一はひめ、真凛、うらら、綾乃の顔を順番に見て
「それであなたたちは、自分たちがチェザルモだと・・・」
椅子をうしろに引いた。
「冗談でしょ。ドッキリか何かでしょ・・・」
恭一の額に汗が滲んだ。
「本当のことだ、キョーイチ」
真凛が真顔で言った。
「急に信じろと言われても・・・」
「私たちのことを今すぐ信じて、とは言わない」
ひめは、真剣な眼差しを恭一に向けて言った。
「でもね、山本くん、椿谷裕司もチェザルモなの。受け入れるまでみんな混乱するの。発狂したり自殺する人もいる。だって誰も信じようと
しないから。親友の山本くんなら彼を信じてあげられるよね。彼を救えるのは、山本くん、あなたしかいない。だから,こうやって話してるの」