スーパーソウルズ
♪he may gimmeeee!!!! ♪
七尾ひめがシャウトする。
比留間綾乃がディストーションする。
牛神うららはシンバルの振動をやさしく押さえた。
金井カーネル真凛がベースの弦を弾いた手を高く掲げる。
ひめ、真凛、うらら、綾乃。女子高生ロックバンド”姫君”の4人の姿は音楽スタジオ”スウェイド”にあった。
スウェイドは世田谷区K駅前の雑居ビルの地下にある音楽スタジオである。
空調、防音、残響ともに最新の設計と設備で、音響機器や機材も最上位クラスのものを揃えていた。
中でも、歌録り、ミキシングもできる最も使い勝手のよいルームAを、姫君は通年で借りていた。
「もう、みんな最高!」
いつものように、ひめは仲間を絶賛した。
「綾乃、もっと前に出ていいよ」
ドラムのうららが最年少の綾乃に言った。
「みんな練習さぼってた割には、上出来だな」
真凛はストラップを外し、レスポールをスタンドに立てかけた。
「秋から始まるライブとツアーは心配なさそうね」
「一発目が灌北大学の学園祭か」
「楽しみですぅ。でもファンの方、来てくれるのかしら」
綾乃は喋り方も声質もアニメボイスだ。
「綾乃、聞いてないのか? チケット完売だってよ」
「え。本当ですか? 嬉しい」
「綾乃、もうギター下ろしていいよ」
「は、はい」
綾乃は赤ん坊を寝かすようにストラトテレキャスターをスタンドに置いた。
ひめはマイクスタンドとケーブル類を手際よく片付けると、ラップトップPCが置かれた小さなテーブルの周囲に丸椅子を5脚並べた。
「あれ? ひめ、1個多いよ」
「いいの」
ひめは壁面に据えられた受話器を持ち上げた。
「きょうはお客さんを呼んであるの」
「誰?」
通話ボタンを押してひめはフロントに話しかけた。
「あ、フロント? 山本恭一くん来てる?」
「キョーイチ?」
「山本くん?」
真凛たちがざわついている中、恭一がルームAの扉を開けた。
「わっ、姫君だぁぁぁ」
恭一の目にハートマークが4つ灯った。
「どうぞ、山本くん」
「ひめ! なんでこんなバカ呼んだ?」
「ま、真凛さん・・・昨日はどうも・・・」
「ほら、バカだ」
「え、真凛さん、昨日山本くんと何かあったんですか?」
「何にもねえよ・・・」
「真凛さん・・・」
「何だよ、バカ」
「昨日、ひめさんと3人で・・・」
「あ、昨日、警察に行ったか」
真凛は顔を赤らめて、バツが悪そうに丸椅子に腰かけた。
恭一と姫君の4人全員が丸椅子に着席すると、ひめが言った。
「警察のこともあるけど、淡嶋会長からの提案があってね、捜索範囲を広げた」
淡嶋を知らない恭一だけが理解不能な顔をしたが、真凛以下姫君の3人は納得して頷いた。
「捜索は引き続きレオに頼んであるから、報告を待つとして・・・」
「レオ?」
恭一が真凛に訊き返す。
真凛は口元に人差し指を立て、静かに聞くよう目で恭一に命じた。
おあずけを喰った仔犬のように、恭一は顎を引いた。
ひめが4人に見えるようにラップトップPCを置き直して言った。
「きょうはみんなに見てほしいものがあるの。山本くんも一緒に」
ひめはPCのキーボードを操作して、ディスプレイ上にYouTubeの動画を再生させた。
”ゼーレ ファーストインパクト”
視聴回数5万回を超えているユアトの動画再生が始まった。