スーパーソウルズ
#2.姫君
「簡単に見つかると思ったんだけどな・・・」
敦木市中心街の舗道を、七尾ひめと金井カーネル真凛、山本恭一の3人が並んで歩いていた。
3人は行方不明になっている椿谷裕司の情報を提供するため、敦木警察署に出向いた帰りだった。
ひめと真凛は、市内のある私立琴和女学院の高校生。
恭一は裕司の親友。同じ第一農業高校の同級生で同じ陸上部員でもある。
ふとしたきっかけでひめは裕司と知り合い、それ以降裕司のことが気になっていた。
裕司がとるであろう行動はひめたちによって把握されていた。
それによって三浦半島の海が見える霊園墓地を裕司が訪れるであろうことは容易に推測された。
そして、先回りしたつもりだったがひと足遅かった。
裕司は霊園の駐車場から何者かによって車で連れ去られた。
ひめたちは、その後一般人には公開されていない通行データや車両画像にアクセスして裕司の行方を追った。
通常ならそれで見つかるはずが、今回ばかりはその痕跡すら見つけることができなかった。
一部データが意図的に消されていたり、捏造されていたのだ。
2週間経っても、裕司の行方はわからなかった。
身内である裕司の姉から警察に捜索願を出されたのは先週末。
恭一宅に聞き込みに来た刑事の話から、恭一の耳に入った。
恭一はひめたちに捜索願の件を話し、情報を共有した。
捜索願が提出された日から、幾日かが経過した。
発見の遅れは裕司の命の危険につながる、とひめは感じていた。
ゆえにひめと真凛は、捜索に協力する形で警察に情報提供を申し出たのである。
しかし失踪は夏休み中によくある無断の小旅行かもしれないと、警察はひめたちの危機感を軽視した。
道すがら買ったコーンアイスを、3人は食べながら歩いた。
真凛はアイスをひとくち食べて、”もう2週間行方がわからないとは・・・”、ともごもご。
「私にもっと力があれば・・・」
「ひめのせいじゃないよ」
真凛は唇のついたアイスを舌先で舐めた。
「騎士団にやられっぱなしが悔しい」
「それな。俺はアホ警察の力を借りることが悔しい」
「伝わったかなぁ、あのお巡りさんに、微妙なとこ」
「伝わったんじゃない? 少なくとも普通の家出じゃないと・・・」
「だといいけど」
「警察はやっぱ苦手だわ」
真凛はもうひと口アイスをかじる。
恭一が後方からふたりに割って入った。
「本当にありがとうございます、ひめさん、真凛さん。裕司のために」
「家出とかで処理されてるだろうから、捜索してもらうためには事件性匂わせておかないと」
「でも、なんで裕司は拉致されたんですか」
恭一が心配そうな声で訊いた。
「さあ、なんでだろうね」
真凛がはぐらかす。
「キシダンって何者なんですか」
「ワンナイトカーニバル?」
「いや、そーじゃないでしょ」
「違った? ィエンジェール」
「もう、真凛さん」
「知ってても教えてあげない」
「三浦のあの霊園で何があったんです?」
「こら、キョーイチ! 声が大きい」
「すいません」
恭一はうなだれて溶けかけたアイスを舐めた。
「謝らなくていいよ、山本くん。いつか話せるときがきたらお話しするから、少し待ってて」
「ひめさん・・・」
恭一の持つコーンから抹茶アイスが溶け、よれよれのスニーカーの上にこぼれ落ちた。
黒塗りの高級乗用車が音もなく停車した。
ひめたちが歩く舗道のすぐ脇だ。
靴にこぼれたアイスを拭き落とすため身を屈めた恭一は、車の接近に気がつかない。
「山本くん、きょうはお疲れさまでした」
そう言われて恭一は顔をあげた。
ひめはショルダーバッグを肩に掛けなおし、舗道の柵をひょいと乗り越えた。
そして車の後部座席のドアが自動で開くのを待った。
車内の様子は、窓に貼られた濃いスモークで窺い知れない。
「会長のお呼びか、ひめ?」
真凛がひめに問いかけた。
恭一が呆然とした顔でひめを見あげる。
ひめは「うん」と首を振って微笑み返した。
「そういうことだから夜の練習はなしね。真凛、メンバーに伝えといて」
「わかった。でも弱ったなぁ。予定が空いちまった」
車のドアが閉まった。
低いエンジン音を鳴らし、高級乗用車はひめを乗せて走り去った。
取り残された真凛は舌打ちして空を見あげ、それから恭一の肩を叩いた。
「キョーイチ、このあと暇だろ、付き合え」
真凛に好意を持つ恭一は緊張が昂じて、まともに真凛の顔を見られなかった。
震える声で
「真凛さん・・・今、何て・・・」
「だから今夜付き合えって」
「俺でいいんすか?」
「ああ、ひとつ言っとくが・・・」
「わかってます、真凛さんは男に興味ない・・・」
「そういうこと」
真凛は財布の残金を確かめると、スマホで横浜山下公園までの移動時間を調べた。