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スーパーソウルズ

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  ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


目覚まし時計が鳴った。
裕司はうつ伏せになったまま目覚まし時計に手を伸ばした。
裕司の手がサイドボードに積みあがっている漫画本の山にぶつかった。
友人から借りたスラムダンクがドサッと崩れた。
後頭部に何かが乗っかっている。
そばがら枕だ。
裕司は頭から枕を取り払い、目覚まし時計のベルを止めた。
辺りを見廻す。
勉強机、クローゼット、壁面にジョジョのポスター。
自宅の自分の部屋だ。
スプリングの音がするベッド。
愛用の水色のタオルケット。
これも夢か?
一瞬そう疑ったが、目に入るもの、手に触れるものすべてリアル。
夢ではない。
極めつけは裕司の姉・麻衣子の声だった。
「裕司、起きたの?」
目覚まし時計の液晶文字が7時52分を表示していた。
”着替えて学校に行かないと・・・。いや待て。きょうは何曜日だ?”
裕司が身体を揺り動かしたとき、裕司の腹部に固いものが当たった。
眠い目をこじ開け固いものを見ると、それは写真立てであった。
一農陸上部同期入部の集合写真。
ガラス面がうっすら湿っていた。
写真立ての中、前列端で肩を組んで笑う裕司と恭一。
「キョーイチ・・・」
ベッドの縁に座って、裕司は暫し写真の中の恭一を見つめ涙ぐんだ。
そのとき裕司の脳裏に、この数か月の出来事が怒涛のように蘇った。
キョーイチ、ジロー、ユアト、ゼーレ。
どこまでが現実で、どこからが幻?
頭が混乱する中、裕司はサイドボードの上にB5サイズのチラシと紙片を見つけた。
”灌北大学灌樹祭”
”メインステージ ガールズロックバンド 姫君”
”ゲスト ユアト(ユーチューバー)/ 超科学研究会”
と書かれた案内チラシだった。
チラシとともに置かれた紙片は、イベントの入場券だ。
裕司はユアトとの別れ際の言葉を思いだした。
”目が覚めて元気だったら、覗いてみて。そのころには犬の容体がわかると思う”
裕司はジャージのポケットに貯金箱の小銭と入場券を押しこんで部屋を出た。
「裕司、朝ご飯どうする?」
姉の声が裕司に届くころにはもう、裕司は団地の階段を駆けおりていた。

駅に続く道を遠回りして、裕司は恭一の実家を訪ねた。
一階は家業の文房具屋だが、シャッターが降ろされ、細い和紙が貼りだされてあった。
”忌中につきお休みします”
悔しい思いと淋しい気持ちで胸がつぶれそうだった。
裕司は戸建ての壁伝いに裏手に回った。
そして勝手口のガラス戸をノックした。
勝手口は、恭一の家で夜遅くまで遊んだ帰りの出入口で、よく心得ていた。
恭一の母親が応対に出てきた。
泣きはらしたような目で憔悴していた。
裕司の顔を見て、
「裕司くん、どうぞ」
という声が弱々しい。
裕司は入るのをためらった。
夢であってほしいと願った。
しかし目の前に
「もう骨になっちゃったけど、拝んで行って」
と履物をかたす恭一の母がいる。
自分は一番の親友を失ったのかもしれない。
でもこの人は17年間育てたひとり息子を失ったのだ。
その喪失感の大きさは自分の比ではない。
裕司は、親友に最後の別れをするために、仏前に膝まづいた。
遺影の恭一は、生前の姿そのままに明るく笑っている。
「こんないい奴が先に逝ってしまうなんて間違ってる」
と裕司が涙ながらに呟いた。
「ありがとう、裕司くん。その言葉と同じこと、さっき来てくれた女の子もおっしゃってました」
「えっ? 女子?」
「そうなの。恭一にあんなきれいな女友達がいたなんて。あたしの知らないことばっかり」
「だ、誰ですか、その女友達?」
「金井真凛さんっておっしゃってたかしら」
「金井真凛、聞いたことがあるような・・・」
「恭一が息を引きとるときに傍にいてくださったみたいで・・・。あの子、ひとりで淋しく死んだんじゃないって聞いて、少しホッとしました」
「もしかして・・・」
「裕司くんご存じかしら。姫君・・・」
「ひめ・・・」
裕司は両の拳を握りしめた。



作品名:スーパーソウルズ 作家名:椿じゅん