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ジャスティスへのレクイエム(第4部)

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 大学時代というと、ジャクソンと知り合ったのは大学卒業少し前だったので、ほとんど初対面の頃から看破されていたということになる。
――私のどこがそんなに分かりやすいのかしら?
 と感じたが、分かる人には分かるのだろう。
――欺こうとして欺ける相手とそうではない相手がいるんだ――
 と、気付いたことで、マーガレットはさらにジャクソンの気持ちを受け入れようという気持ちが強くなった。
 この頃には、ジャクソンの頭の中にはマリア妃のことはなかった。いかに目の前の女性を幸せにできるかということを考えていた。
――国家のことを考えるより、一人の女性を幸せにできるかどうかというのを考える方がこんなにも難しいなんて――
 とジャクソンはいまさらながらに、恋愛の奥深さを感じていたのだ。
 ジャクソンが初めて仕事以外で誰かを気にしたのがマーガレットだった。マリアにも気をひかれた時期があったが、それは錯覚であったと思っている。
 マーガレットに対しても、マリアに感じたような錯覚があったのかと思ったが、いつまで経っても、マリアに感じた時のような気のせいだという思いがこみ上げてこなかった。
――やはり私はマーガレットを気にしているんだ――
 と感じた。
 マーガレットは才色兼備で、誰からも好かれる性格だったが、逆に彼女のことそ嫌いになった人がいたとすれば、その根は深いのかも知れない。実際にマーガレットの近くに、彼女のことを嫌いになった人がいた。それがまだマーガレットが小学生の頃だったので、女性としての魅力というよりも、可愛らしさが目立つ年頃である。
 マーガレットは生育も早く、すでに小学生低学年の頃には初潮を迎えていた。四年生になる頃には胸も膨らみ始めて、同年代の人よりも年上の思春期頃の男の子からの視線が眩しかった。
 その視線はさすがに思春期の男の子らしく、いやらしいものであった。マーガレットは発育は早かったが、精神的な発育は他の女子と同じだったので、思春期の男の子の視線を気持ち悪いとしか思えなかった。
 その視線を感じていたのはマーガレット本人だけで、誰にも相談することもできず、一人で悩んでいた。マーガレットの今までの生涯で一番不安に感じていた時期がいつだったのかと聞かれると、
「小学生のこの頃だった」
 と答えるに違いない。
 そんなマーガレットのクラスメイトに、身体は幼かったが、精神年齢的にはすでに思春期に近い女の子がいた。彼女は心身のバランスが悪く、精神的に病んでいる時も身体に変調を起こしたので、何が原因なのか、医者にも分からなかった。精神的なことが原因であれば、それなりに治療法もあったのだろうが、まさか小学生低学年の女の子が思春期的な心を持っているなど、誰が想像できたであろうか。
 マーガレットは知らなかったが、彼女は中学に入る頃に父親が海外赴任となり、そのまま国外へと出て行った。その行先というのがジョイコット国で、父親はそのままジョイコット国専属になったことで、彼女もこの国に定住する形になった。
 今は何をしているかというと、ジョイコット国の軍に所属していた。
 ジョイコット国には女性の軍人も多く、彼女が所属していたとしても不思議ではない。中学に入った頃の彼女はすでに身体の方は成熟していて、同年代の男の子ではとても太刀打ちできるものではなくなっていた。
 当時のジョイコット国は、治安があまりよくなかった。女性の夜の一人歩きは危険であり、時々、都市圏では、
「女性の夜間外出禁止令」
 が出ているほどだった。
 ただ当時のジョイコット国は対外的には平和であり、戦争や紛争が近隣で起こっても、巻き込まれることはなかった。そのせいもあってか、国内の治安が悪かったのだが、本当は別の理由があった。
「ジョイコット国を制圧するには、外部から攻めるよりも、内部の混乱に乗じて攻め込む方がいい」
 という戦略をまわりの国は立てていたようだ。
 実際にジョイコット国を戦争に巻き込もうものなら、近隣の国が自国の防衛を脅かされるとして、ジョイコット国にどこかの国が攻め込めば、ジョイコット国の近隣諸国が団結して、その危機を排除しようとするからだった。
 だが、団結した国が明日は敵になる可能性もある。そんなリスクを冒してまでジョイコット国に侵攻するのはバカげていると、どの国も考えていた。
 そんなジョイコット国であるが、内部から揺さぶりをかけて、混乱を誘うというやり方は、いくつかの国で試みられた。クーデターを起こさせようとする作戦や、政府内にある隣国への派閥を敵対させることで派閥の一つを取り込もうとするやり方が考えられた。
 だが、ジョイコット国はそのたびに危機から逃れてきた。その時々で逃れ方は違うのだが、攻め込んでくる国が途中で路線変更を余儀なくされることが多く、初志貫徹できないことが作戦の失敗を招いていることがほとんどだった。
 そこにジョイコット国の国内スパイが存在していることが大きかった。まわりの国が送り込んだスパイをジョイコット国のスパイが仲間のふりをして近づき、スパイを翻弄する。他国のスパイはまさか自分が翻弄されているなどと思いもしない。スパイに来た国の中に、自国のスパイが存在しているなどと想像もつくはずないからである。
 ミイラ取りがミイラになったというべきなのだろうが、国内スパイも混乱させようとして送り込んだスパイから情報を得ていたが、それを使ってこちらから返り討ちにしてやろうなどと思うことはなかった。下手に動けば、自国のスパイ作戦が相手にバレてしまうからだ。あくまでも自国スパイという存在は、明らかになってしまってはダメであった。
 ジョイコット国は大きな国ではないので、自国に入ってきたスパイをミイラにしてしまうことはできても、他国にスパイを潜入させるような余力はなかった。だから、どの国から見ても、
「ジョイコット国に、スパイは存在しない」
 と思わせていたのだ。
 スパイを育てるには、それなりの施設や環境が必要だ。
 ジョイコット国は、それを軍部に委ねた。軍部の中でスパイを育てるという極秘部署が存在した。当然その中には成人男子だけではなく、女性や子供、老人までもが含まれていた。それぞれに教育を受けて、護身術のような訓練も受けていた。
 彼らは、かつてこの国に住んでいた、
「忍者」
 と呼ばれる人種と同じだった。
 存在を隠して、この世に潜んでいなければいけない。その存在が明らかになりそうになったら、自らで命を断ったり、密使によって暗殺されることを了承したうえで、彼らは任務を遂行することになる。
 したがって、彼らは家族からも拒絶され、本人は死んだことになっている場合も多い。天涯孤独の人がスパイになっているパターンも多いが、天涯孤独だというだけでなれるほどスパイというのは甘くなかった。
 訓練の中で脱落していくものもいて、彼らはスパイの存在を知ってしまっている、下手をすればその場で暗殺される運命にあり、暗殺されなれけれ、記憶を消去するという手術を受けさせられる事態になった。