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ジャスティスへのレクイエム(第4部)

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。ご了承願います。

「この世の正義は唯一、戦いによって支配されるものである」

                 女と男のこと

 シュルツとチャールズがチャーリア国を建国した頃に時代は遡る。ちょうどその頃、チャールズが国王だった頃の妃と側室は、ジョイコット国に亡命していた。
 ジョイコット国はチャーリア国建国のための、
「隠れ蓑」
 として武器弾薬、さらには兵をかくまう目的で利用されていたが、王妃や側室をかくまうという意味でもジョイコット国は貢献していた。
 シュルツもチャールズも、チャーリア国を建国し、国が落ち着いてくれば、王妃のマリアと側室のマーガレットをチャーリア国に招き入れて、今まで通りの生活が戻ってくると思っていた。
 しかし、チャーリア国の建国に関しては、さほど困難なこともなくうまく行ったのだが、建国に力を入れている間にマリア王妃とマーガレットは行方不明になっていた。
「ジョイコット国から他の国に行ったということはないと思います。あの国は入国よりも出国の方が難しい国で、二人が国外退去したのであれば、分かるというものです」
 と、シュルツの腹心の部下がそう言った。
「ということは、まだジョイコット国に滞在しているということか。いつの頃まで二人の状況を把握していたんだ?」
 とシュルツに聞かれ、
「三か月前くらいまでは確かに行方は分かっていました」
「ということは、チャーリア国に武器弾薬も兵も入国させることに成功した頃のことだな?」
「ええ、そうです。別にうまく行ったので油断していたわけではないのですが、急にその存在が不明になったんです。忽然と姿を消したとしか言いようのない感じですね」
「しかし、住んでいたところは分かっていたのだろうから、生活の様子から、少しは何かが分かるんじゃないか?」
「そう思って、私も住んでいた部屋を探ってみたんですが、まったくそこに誰かが住んでいたというような形跡がないほどに片づけられていたんです。故意に存在を消したとでも言えばいいんでしょうか」
「どういうことだ? それじゃあまるで二人が示し合わせて姿を消したとでも言いたいのか?」
 シュルツはいつになく狼狽していた。
 政治的なことになれば、自分の経験から自信のない姿を見ることができないシュルツだが、こと政治以外のことになると、本当に臆病になっている。
――この人も人間なんだ――
 と普段からの冷静沈着なシュルツからは信じられないような、それでいて人間らしい微笑ましい姿になってしまうほどのギャップに、驚きと安心の両方を感じるというのも面白いものだった。
 示し合わせて姿を消したのかどうか分からないが、どうやら最悪の状態ではないというのが、腹心の部下の話だった。
 最悪の状況というのは、二人の正体を知った誰かが、二人を拉致監禁しているという状況である。しかし、もし拉致監禁したのであれば、その理由は身代金要求なのか、何か政治的な事情からの拉致なのか、どちらにしても、三か月も経って何も言ってこないということは、その可能性は極めて低いと言わざるおえないだろう。
 だが、最悪の状態としてもう一つ考えられる。
 国内が混沌とした、静かとはお世辞にも言えない状態のジョイコット国なので、密かに誰かに呼び出され、そして殺されていたというのが、最悪の状態であった。
 いくら調べても、ある地点から二人の行方はビッタリと消えてしまった。それは、殺されてどこかに埋められてしまっていると考えられなくもない。
 だが、二人はそんなに簡単にやられるような女性ではなかった。マリアの方はか弱い女性そのものであったが、マーガレットの方は、武道にも護身術にしても、一通りのことはこなす。その腕前は婦警さんとそん色のないほどであり、少々中途半端な強さを持った男性なら、すぐにマーガレットなら片づけることができるほどだった。
「マーガレットは、きっとマリア妃を守ってくれるだろう」
 というのが、シュルツの思いだった。
 マーガレットは、学生時代から英才教育を受けてきた。武道や護身術、さらには兵器の扱いまで、そのあたりの男に比べれば、よほどの能力を持っている。だからと言って、男勝りというだけではない。女性としての品格も兼ね備えていて、だからこそチャールズの側室になれたのだ。
 マリアが妃になったのは、元々許嫁からであった。つまりは、先代の国王が健在の時からすでにチャールズは元服を済ませ、結婚していた。そのため、まだ国王に即位していない間の妻ということで、
「妃」
 という称号が用いられていたことで、チャールズが国王になってからでも、マリアのことを「妃」をつけて呼ぶことになっていた。
 マリアは実におとなしい女性で、自分から意見を言うこともなく、生まれながらの、
「お姫様」
 だったのだ。
 マリアの家系は、実はアクアフリーズ王国出身者ではなかった。アクアフリーズ王国が存在していた頃に一番親密にしていた国からの王妃候補だったのだ。
 ただ、その国の国王は先代の国王とは遠い親戚ということもあり、昵懇にしていたが、王国としての権威を世界に知らしめていたアクアフリーズ国とは違って、その国はまだまだ小国だった。そういう意味ではこの結婚に大いなる意味を感じていたのは、相手国の方だったのだ。
 だからといって、先代が乗り気ではなかったわけではない。先代がマリアと会ったのは、マリアがまだ十歳くらいの頃で、その頃になれば、相手のことをある程度は分かるのだと先代はタカを括っていた。
 女性は男性に比べて発育も早ければ、頭の成長も早い。そう思って見ていると実に聡明なお嬢さんに、マリアが見えてきたのだった。
 マリアは黙っていると実におとなしいが、その心根に潜む気の強さは、かなりのものだった。気の強さに限って言えば、
「私も敵わないわ」
 と、あのマーガレットにそう言わしめただけのことはあった。
 どこが気が強いのかというと、マリアには潔さがあった。
 人は潔さを発揮するのは、開き直った時だろうと思えたが、マリアの場合は絶えず気の強さを醸し出していた。そのことに気付かないのであれば、その人はまともにマリアの顔を見ていないからだろうと思わせるに至った。
 ただ普通の人は潔さからいきなり気が強いという結論を見出すことはないだろう。相手がマリアだからそう感じるのであって、マリアがお嬢様で、お妃候補だから余計にそう見えたに違いない。
 マリアは結婚するまでに母国で英才教育を受けていたが、その半分は途中で挫折していた。
「もう、どうして私がこんなことをしなければいけないの?」
 と、少しでも嫌なことであれば、そう言って反発した。
 その思いは、
「少しくらいの嫌なものでも、少々我慢して続けてみると、意外と楽しく思えてくるものもある」
 ということが分かっているからだった。
 マリアの場合は、少々の我慢ができない環境に置かれていた。彼女の家庭教師として選ばれた女性は、完全な完璧主義者だったのだ。
 それを国王は、
「頼もしい」
 と感じ、マリアの家庭教師にピッタリだと思っていた。