小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

Jane Doe

INDEX|9ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

「何だ? もしかして、金を取って逃げる気か? あんた、それは中々の裏切りだぜ」
「好きに言え。何年縛られてきたと思ってんだ。十五年だぞ」
 香苗が床に置かれた拳銃を手に取ろうとしたとき、鈴野は言った。
「俺のことは撃てばいいさ。死体が上がっても、身元なんて分からないだろうしな。でも、こいつらは?」
 鈴野は、家族連れを目で指した。
「ちゃんと根回ししないと、大騒ぎになるぜ」
 耕助は、急に相手をしなければならない人間が三人増えたように感じて、銃口をそちらに振った。それは、香苗が銃を手に持って立ち上がったのと、ほぼ同時だった。鈴野は、香苗の手で宙づりになった四五口径を掴むと、引き金を引いた。銃声が鳴り、香苗の脇腹に穴を穿った。村瀬は無事な方の足で椅子を蹴り、カウンターを乗り越えて反対側に転がった。それを横目で捉えた鈴野は、耕助が構える拳銃の銃口が向き直る直前、その体に銃口を向けて続けざまに引き金を引いた。一発が腰の真上に突き刺さり、耕助は飛びのいて尻餅をついた。銃口はまっすぐ鈴野の方を狙っており、咄嗟に後ずさった鈴野は、同じように銃口を耕助へ向けたまま間合いを開けた。耕助は、空いている方の手で香苗の体を掴むと、L字型になったカウンターの終端まで引きずり、自分も身を隠した。同じ場所に手狭そうに屈んでいる佐岡一家と、目が合った。伊波が隠れていたテーブルの下から顔を出し、言った。
「物騒だな」
「あんた、ちょっとは手伝えよ」
 鈴野が呆れたように言うと、伊波は口をへの字に曲げた。
「おれは暴力反対でね」
   
 耕助は、洋平に拳銃を向けた。
「あんた……、みんなだ。携帯を出せ。今は通報されたら困るんだ」
 洋平は、和佳子を促し、お互いのスマートフォンを差し出した。耕助は二つともポケットにしまいこみ、自分の体に吸い込まれた弾を確認するように視線を落とした。どうなっているのか、皆目分からなかった。致命傷なのかもはっきりしないぐらいに、撃たれた実感というのは、曖昧だった。
「僕は持ってない」
 亮也の言葉に、耕助は精一杯の作り笑顔を見せた。
「そうか、ごめんな。こんなことになるとは」
 香苗が苦しそうに咳をして、血を吐いた。和佳子は涙をぬぐいながら、耕助に言った。
「止血しないと。わたし、看護師なんです」
 和佳子は上着を脱ぐと、ペーパーナプキンを棚から取った。香苗の体をゆっくりと起こし、弾が肝臓を抜けていることに気づいて、肩を落とした。その様子から、どうにもならないことを悟ったのは、長年その後ろ姿を見てきた洋平だけだった。
 本来の目的に立ち返った耕助は、叫んだ。
「お前ら! お前の銃から弾を食らったおれは、雇い主からはどう見えると思う?」
「生きてる価値のない、間抜けに見えるだろうな!」
 鈴野はカウンターの反対側から反論した。伊波は、新しい弾倉をポケットから取り出した鈴野に、小声で言った。
「あんた、勝算はあるのか?」
 鈴野は首を縦に振った。
「あの屋代ってのは、一生かけても返せないような借金を抱えてる。だから、ここに缶詰めになってんだ。そんな連中の言うことを、誰が信用する? 雇い主はそんなに甘くない」
「このまま朝まで粘るのか? 誰か呼べよ」
 相手に聞こえるように敢えて音量を上げた伊波の言葉に、鈴野は首を横に振った。
「こんな姿は、人に見せられない。食堂の店主相手に撃ち合って、膠着してるとこなんてな」
 その妙なプライドに笑いながら、伊波は新聞を畳んで窓の外を一度見ると、鈴野の方に向き直って、小声に戻った。
「仮にあの二人がくたばったとする。あの家族連れはどうすると思う? 通報するぞ。それがここからは見えないんだ」
 鈴野は、新しい弾倉に入れ替えた四五口径でこつこつと自分の額を叩きながら、考えているようだった。伊波は窓の外をもう一度見ると、腕時計に視線を落とした。
作品名:Jane Doe 作家名:オオサカタロウ