オヤジ達の白球 66話~70話
「雪が降れば仕事になるから、行政から報酬が出る。
しかし。降らなければ雀の涙程度の金をわたされて、
はいご苦労さんで解散だ」
「大変だね。庶民の生活を支える縁の下の力持ちも」
「うまいことを言うねぇ。さすが監督だ。
高台の雪かきはおわった。これから下へおりるところだ。
乗ってけ。少し狭いが、下り坂で転倒する危険を考えればはるかに
安全で快適だ」
どうぞと熊が運転席のドアをあける。
座るスペースはない。しかし大人一人が入れるスペースは充分にある。
驚いたことに暖房が完備している。運転席はセーターで居られるほど温かい。
「土木の現場は過酷な場所がおおい。
道路の建設にしても、河川の整備にしても、大自然のど真ん中での作業だ。
ほこりもたつ。雨風にもさらされる。
そんな中で一日中作業するんだ。
快適な空間でなければ8時間はもたねぇ」
熊が言うようにたしかに快適といえる空間だ。
老人たちが苦労してのぼる心臓破りの急坂を、ホイルローダーが
ゆうゆうと降りていく。
速度はゆっくりだ。だがおもいのほか乗り心地は良い。
5分ほどでホイルローダが、下の平坦地へ出る。
「おもな道路は、すでに除雪がおわっている。
これから行くのは、住宅街だ。
生活道路を除雪しておかないと、いざというとき緊急車両が通れない。
救急車を呼んだのに雪で立ち往生したんじゃ、話にならないからな」
世話になったねと熊の肩を叩き、祐介が運転席から降りていく。
時刻は朝の6時40分。
うす暗かった空が、じょじょに明るさを増してきた。
(68)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 66話~70話 作家名:落合順平