オヤジ達の白球 66話~70話
渡良瀬川の堤防に祐介が立った時刻は、8時15分。
風はあいかわらず強い。
北の赤城山から、強い風が吹き下ろしてくる。
頬へ、氷点下の風が打ちつける。
祐介が渡良瀬川の堤防へ登って来たのは、まったくの偶然だ。
雪かきのスコップを手にした祐介が、何気なく、渡良瀬川の堤防を見上げる。
誰か歩いたのだろう。雪の中にひと筋だけ、堤防へ向かう小道が出来ている。
(朝早くから雪の堤防を散策するとは、物好きなやつがいるもんだ)
つられて祐介も、堤防の道をあがっていく。
堤防から見あげる見慣れた赤城山の山容が、祐介は大好きだ。
ここから見る赤城山は、1800メートル級の5つの峰が横一列にきれいに並ぶ。
その山が今日は麓まで、白一色に染まっている。
(50年近く見続けてきた赤城山だ。しかし、ここまで
白くなったのは初めだな・・・)
対岸に、工場がいくつか見える。
祐介のおさない頃にはなかった建物だ。
工場と工場のあいだに民家はない。昔からの農地だけがひろがっている。
農地の真ん中に、アーチパイプで建てられた連棟の
ビニールハウスが立っている。
今の時期。内部で暖房を焚きながら、キュウリの苗を育てている。
キュウリのハウスがぐらりと揺れた・・・ような気がした。
(はてな。揺れたぞ?・・・
ビニールハウスの屋根がいま、たしかに揺れたような気がしたぞ・・・)
祐介の目が対岸のビニールハウスに、くぎ付けになる。
つい先ほど、ぜんたいが大きく、ぐらりと揺れたように見えたからだ。
しかしいまは、まったく動いていない。
(気のせいかな・・・
動くはずないよな。鉄のパイプで出来たビニールハウスが)
作品名:オヤジ達の白球 66話~70話 作家名:落合順平