オヤジ達の白球 66話~70話
やっぱり錯覚だ。
そんなはずがないよなと、祐介が対岸から目を転じていく。
視界の中からゆっくり、キュウリのビニールハウスが消え去っていく。
目の隅から消えようとした、まさにその瞬間。
ぐらりともういちど、ビニールハウスのまるい屋根が揺れた。
(また揺れたぞ!。確かに見た。こんどは錯覚じゃねぇ。
この目でいま、はっきりと見た!)
屋根が波うちはじめた。
ビニールハウスの屋根を支えていた鋼鉄製のパイプが、重みに負けて
変形していく。
それでもたわみかけたアーチパイプが、必死に抵抗する。
屋根の重みを最後の力で受け止める。
しかし。勝負はあっけなかった。
数秒後。ビニールハウスの中央部が、雪煙をあげて地面へ陥没していく。
(嘘だろう・・・一晩中、雪の重さに耐えて頑張ったんだ。
雨がやみ、雪もやんだ今ごろになって、強風にあおられて
崩れていくなんて、
まったくもって、信じられない光景だ・・・)
ビニールハウスの中央部が、かんぜんに地面へ落ちた。
30秒もかかっていない。
ハウスの中に人が居たら、かんぜんに押しつぶされていただろう。
時刻は8時17分。
キュウリ農家のハウス倒壊をきっかけに、このあたりのビニールハウスの
およそ8割が、あいついで倒壊していく。
(71)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 66話~70話 作家名:落合順平