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今よりも一つ上の高みへ……(第一部)

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「確かにこの十年ほどはすっと四番で使ってもらってるがね、安泰と言うわけじゃないよ、特にこのニ、三年は成績も下降気味だからね、気を許せばすぐに追い越されるさ、そうなったら引退だな」
「まだまだやれますよ」
 雅美はそう言ったものの、不動の四番ですら危機感を抱いてトレーニングしていることに驚いた、それほど厳しい世界なのだと……。
「特にデイビスが来た時は必死だったよ」
 デイビス選手……4年前に大リーグ傘下3Aからシーガルズにやって来た助っ人だ、シーガルズではずっとライトを守り、広田の後の五番を任されている。
「デイビスさんはファーストだったんですか?」
「ああ、助っ人はファーストか外野手が多いな、キャッチャーや内野手はメジャーでも貴重だからな、ファーストや外野でメジャーまでもう一歩届かないって辺りの選手がよく日本に来るんだ、デイビスはアメリカじゃずっとファーストだったよ、まあ、外野もできるから採ったんだろうが、外野手には日本人のホープもいるからな、俺が押し出される格好になっても不思議はないよ」
「そんなことないですよ……」
「いや、そういうものだよ、デイビスに限らないよ、武内なんかも俺にとっては脅威だな」
「武内さんはキャッチャーですよね」
「今のところはな、だけど小山さんに言わせれば向いてないそうだよ、俺もそう思う、だけどあいつのバッティングは本物だ、コンバートするとなったらファーストが第一候補になるだろうな……常にゲームに出られなくなったら俺は自分自身に見切りをつけるよ」
 雅美が子供の頃から広田はずっと変わらずにシーガルズの中心選手だった、それが当たり前で一度そうなったら引退まで変わらないもののように感じていた、だが実際は違った。
 広田のような選手ですら人一倍トレーニングして、それでも毎年のように尚競争に晒されている、長身選手の座は約束されているものではなく、毎年勝ち取っているものだった……なのに自分のような新人がトレーニングを嫌がっていたら……活躍はおろか、クビが待っているだけかもしれない。
 そして……。
「君は女子プロ野球を背負ってるんだぜ、君がシーガルズで成功しなかったら、次に女性選手が現れるのは何十年後になるかわからない、それを肝に銘じておけよ、期待してるぜ」
 ポンと肩を叩かれた、しかし、その掌はずいぶんと重く感じられた。
 自分は女子プロ野球を背負っている……そんな風に考えたことはなかった。
 より高いレベルの舞台に挑戦してみたい、その気持ちだけで指名を受けた……そう意識してたわけではないが、通用しなければまたレッドシューズに戻ればいい……そんな甘さがあったようにも思う。
 でも、シーガルズをクビになった選手がレッドシューズに戻って以前のように活躍したら……体力や体格に男女差があることは事実だが、野球は体力だけでやるものではない、技術や頭脳も大きなウエイトを占める、それでも埋められない大きなレベルの差があることを証明してしまうようなものだ。
「ありがとうございました!」
 雅美は弾かれたように立ち上がって、ドアを開けて出て行こうとした広田に向かい深々と頭を下げた。
 広田は少し驚いたような顔をしていたが、気持ちの良い笑顔を見せて手を振ってくれた。