L K ゼロ 「スピンオフ」(仮題)第7話まで公開
「コース修正は?」
『それは推奨できません』
私はモニターに滑らせていた指先を止めた。
「どうして?」
『この船のサブスラスター(方向舵)では、このような微細な角度調整には向きません。数回の微調整により、エネルギーを浪費してしまいます。16年後に一括して調整するのが効率的です』
「ではそうしてちょうだい。今回はエラーリセットせず、イグノア(無視)で処理」
『今回はイグノアに設定しました』
私は座席に深く腰を掛けなおして、浮き上がる体を固定した。
『2件目。スレーブコントローラーに通信異常が発生しています』
「どのコントローラー?」
『前方の長距離センサーユニットのコントローラーです』
「センサースキャンができていないの?」
今度は少し身を乗り出した。
『センサーは正常です。スレーブからホストコントローラーへのアップロードの際に、100分の3秒程度、通信の途絶が6回発生しました。データそのものは再ロードが行われ、バックアップは正常に終了しています』
「通信異常の原因は?」
『不明です。スレーブコントローラー内のD2基盤にて、EQL通信回路の接触不良と推測します。物理的要因の可能性が高いので、修理を要求します』
それを聞いて私は軽くため息をついた。
「後でやるわ。次は?」
『3件目。太陽系司令部からの要請で・・・・・・』
私は数日間、数々のメンテナンス項目をこなしながら、船の不具合個所の修理も行っている。そろそろエラーが出ていたスレーブコントローラーの修理もしなくてはね。トラブルシューティング(不具合調査)は時間が読めないから、急を要さない限り、いつも後回しにしている。
船の前方に設置されたセンサーユニットは、防護隔壁の内部に問題のコントローラーが格納されている。船に隕石や漂流物がぶつかる可能性は極めて低いけど、もしもの場合に備えて前面だけ物理的に強化されていて、がっちりした構造になってるの。つまりショックアブソーバーなんかの衝撃吸収構造になってないから、振動をもろに受けちゃうのね。私はそんなモジュールの中で、宇宙服を着て作業に当たっている。
作品名:L K ゼロ 「スピンオフ」(仮題)第7話まで公開 作家名:亨利(ヘンリー)