L K ゼロ 「スピンオフ」(仮題)第7話まで公開
第1話 エルの感情
「ああぁはぁ・・・。コンピューター。今日はいつ?」
人工睡眠キャスケット(棺)の中で、私は欠伸をしながらナビゲーション・コンピューターに尋ねた。
『おはようございます。今は西暦2075年3月7日です』
「やっと10年目ね」
『活動前にまずは、経口補水とニュートリ・タブレット(栄養剤)を摂取してください』
キャスケットから手を伸ばして、側のコンソールに手をかざすと、そのケースの蓋が自動的に開いた。そこからタブレットを1粒摘んで、口に運ぶ。
「すっぱ・・・」
そして、コンソールからチューブを引っ張って、補水液を飲んだ。でもまだ起き上がるのはイヤだな。
私はこの手順で1年に1度、目を覚ます。ここは探査船の遠心回転モジュール内にあって、0.9Gの重力を受けながら、軽い運動で体を慣らして、これからの任務に就くというわけだ。この部屋から出勤していく先は、船の中心にあるコクピット。
「痛い!」
運動の後、体はなんとか動かせるようになったけど、無重力モジュールの中は、1年の間に浮遊物だらけ。それをうまく避けて、空中を飛んでいくのは容易ではない。壁のサポートバーを掴んで、右へ左へ身体をくねらせ体をぶつけながら、ようやくコクピットに座ることができた。
「コンピューター。まずはエラー履歴を報告して」
この確認が、いつも一番にやる仕事だ。
『この1年で、エラーは4件上がっています。重大な問題はありません』
私はモニターに表示された、数々のメッセージウィンドウを整理し始めた。
「内容は?」
『1件目。コースが0.1の12乗かける8度ずれています。約12光年離れた宙域にある亜空間断層の重力異常の影響を受け始めています』
「航行に問題はない?」
『今はまだ、問題ありません』
作品名:L K ゼロ 「スピンオフ」(仮題)第7話まで公開 作家名:亨利(ヘンリー)