ジャスティスへのレクイエム(第2部)
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。ご了承願います。
「この世の正義は唯一、戦いによって支配されるものである」
核開発
最初の紛争を戦争と呼ぶのだとすれば、それは、
「第一次戦争」
と呼んでいいのではないだろうか?
それ以降、三年ほどは紛争の火種はあったのだが、お互いに先端を開くことはしなかった。お互いの国同士、
「相手国を刺激しないように」
と、国境警備隊にはそれぞれ訓示が出され、国境警備隊の任務につく人も、軍の中から選抜された優秀な人たちだったこともあって、軍紀が乱れることもなく、相手を監視するという点では優秀だった。
この間にアレキサンダー国もチャーリア国も、お互いに軍拡を重ねていた。
ただその目的はお互いに違っている。アレキサンダー国はチャーリア国を侵略するためで、チャーリア国は侵略から自国を守るためだった。そのため揃える軍備はそれぞれに違っていた。しかし、攻めと守りのそれぞれを強化しているので、攻める方も迂闊に手を出せば大やけどを負ってしまうことは分かっているので、簡単には攻撃できなかった。
お互いの軍事バランスが保たれているとはいえ、周辺にて、
「これで平和が保たれている」
などと感じている国は一つもなかったことだろう。
一触即発の状態でありながら、お互いに睨みあっているだけだというのは、必ず近い頂礼、衝突を免れないということを意味しているからだった。
もちろん、その間に外交的な平和努力は行われていた。
ただ、アレキサンダー国とすれば、ある程度高圧的な態度を示しているのは、あくまでも自分たちがクーデター政権であるという負い目があるからだった。一歩間違えれば、まわりにばかり目を向けていると、足元から掬われるという不安がないわけではなかった。内部にも目を光らせながらの外交が高圧的になるのも仕方のないことではないだろうか。
チャーリア国としても、そのあたりのことは十分に分かっているつもりだった。それだけに余計なけん制は自殺行為であることを認識していた。チャーリア国にとってアレキサンダー国は、自分たちを母国から追い出した憎き相手であり、到底国家として容認できる相手ではないということも分かっている。軍部の中には強硬派がいて、
「今なら、アレキサンダー国をやっつけることができます」
と、自分の軍隊に自信を持っているからこそ言える発言をする幹部もいたが、シュルツは冷静だった。
「まあ、そういきり立つこともないだろう。来るべき時が来れば、私の方から命令を発する。それまで待ってはもらえないだろうか?」
と何度も説得を繰り返していた。
チャールズの方もシュルツの考えにしたがっていた。
「我が国は、まだまだこれからのできたばかりの国だということを、皆さん自覚してください。いくら軍備が整っていても、まわりは我々を新興国だとしてしか見てくれていません。つまりは、海のものとも山のものとも分からない我々を支援してくれる国が本当にあるのかどうか、それは外交努力によって、培われていくものだと思っています」
というのが、チャールズの考えで、閣議でも同様の発言を何度もしていた。
「アレキサンダー国は、本当に攻めてきますかね?」
というのは、外務大臣の意見だった。
「必ず攻めてくると思っているよ。その理由については私とシュルツ首相が分かっているつもりだが、今はまだその理由を話す時期ではない。もう少し待ってほしい」
とチャールズは言った。
外務大臣は、アクアフリーズ国からの亡命者ではない。元々アルガン国にいた政府高官だったが、チャーリア国の独立に際して、アルガン国から派遣された大臣だった。出世には違いないが、本人が左遷されたと思っているのだとすれば、この国の行く末など他人事に思われるかも知れない。
ただでさえチャーリア国はアクアフリーズ国からの亡命者とアルガン国からの派遣とでまかなっている国である。一枚岩ではなく、烏合の衆と言ってもいいのではないだろうか?
そのことを一番身に染みて感じているのがシュルツだが、今はまだ他の高官には話ができない秘密を持っていることで、不安しかなかったが、いずれクリアされればチャーリア国は、他の国に負けない一枚岩の国になれると自負していた。
「ところで、数年前にありましたアレキサンダー国との国境付近での紛争ですが、その際にアクアフリーズ国の軍隊も、一部参加していたという話ですが、首相はご存知でしたか?」
と、今度は陸軍大臣が口を開いた。
陸軍大臣は、元々アクアフリーズ国でも陸軍にいて、参謀部長をしていた。彼にとってチャーリア国の軍も、現在のアクアフリーズ国の軍も、それぞれに掌握しているだけに、もし今自分で話したことが事実であるとすれば、一番憂慮を感じているのは、当の陸軍大臣ではないだろうか。
「ああ、知っているよ。君にとっては耳が痛い話で、旨を締め付けられるようなことなのかも知れないが、彼らはアクアフリーズ国内に立てられたアレキサンダー国の傀儡政権に操られているんだ。今後彼らを解放してあげるのも我々の使命だと思っている。その時は陸軍大臣。君には十分に働いてもらうことになるから、そのつもりでいてくれたまえ」
とシュルツは答えた。
「はっ、閣下の仰せの通りでございます」
と直立不動で敬礼した陸軍大臣の気持ちは、伸びきった背筋が表していた。
そんな陸軍大臣を頼もしいと思いながら、シュルツ長官は、何度も頷いて見せた。目には涙を溜めていたのだが、その涙が心の底からのものだったのかどうか、分かる人は誰もいなかったことだろう。
三年前にアレキサンダー国と国境紛争があってから、閣議は今までに比べて頻繁に行われるようになった。その大半は国境警備の問題から始まって、外交交渉問題、そして自国の軍拡問題と、アレキサンダー国を意識した内容になっていた。
それというのも、シュルツ長官が日頃から話しているように、
「アレキサンダー国は必ずまた攻めてくる。それまでに我が国はできる限りの準備をしておかなければならない。それが外交努力であり、軍拡である。しかもこの軍拡は、自らが侵略するためのものではなく、あくまでも専守防衛が目的である」
というのが前提だった。
「専守防衛だけでいいんですか? 先制攻撃こそ、最大の防御ということもありますよ」
と他の閣僚から言われたこともあったが、
「今は専守防衛に徹する時期なんです。しかるべき時期がくれば、我が国も戦略のための軍拡を進める時期が来ると思うのですが、まずは攻めてくると分かっている相手を迎撃することで、却ってこちらが握ることができれば、そこでいい条件での和議を結ぶことができて、国際社会からも認められるとは思わないかね?」
と、シュルツ長官は言った。
長官の言葉にはそれなりの説得力があった。説法も筋が通っているし、彼の説得力は、他の閣僚にはないものだった。
「この世の正義は唯一、戦いによって支配されるものである」
核開発
最初の紛争を戦争と呼ぶのだとすれば、それは、
「第一次戦争」
と呼んでいいのではないだろうか?
それ以降、三年ほどは紛争の火種はあったのだが、お互いに先端を開くことはしなかった。お互いの国同士、
「相手国を刺激しないように」
と、国境警備隊にはそれぞれ訓示が出され、国境警備隊の任務につく人も、軍の中から選抜された優秀な人たちだったこともあって、軍紀が乱れることもなく、相手を監視するという点では優秀だった。
この間にアレキサンダー国もチャーリア国も、お互いに軍拡を重ねていた。
ただその目的はお互いに違っている。アレキサンダー国はチャーリア国を侵略するためで、チャーリア国は侵略から自国を守るためだった。そのため揃える軍備はそれぞれに違っていた。しかし、攻めと守りのそれぞれを強化しているので、攻める方も迂闊に手を出せば大やけどを負ってしまうことは分かっているので、簡単には攻撃できなかった。
お互いの軍事バランスが保たれているとはいえ、周辺にて、
「これで平和が保たれている」
などと感じている国は一つもなかったことだろう。
一触即発の状態でありながら、お互いに睨みあっているだけだというのは、必ず近い頂礼、衝突を免れないということを意味しているからだった。
もちろん、その間に外交的な平和努力は行われていた。
ただ、アレキサンダー国とすれば、ある程度高圧的な態度を示しているのは、あくまでも自分たちがクーデター政権であるという負い目があるからだった。一歩間違えれば、まわりにばかり目を向けていると、足元から掬われるという不安がないわけではなかった。内部にも目を光らせながらの外交が高圧的になるのも仕方のないことではないだろうか。
チャーリア国としても、そのあたりのことは十分に分かっているつもりだった。それだけに余計なけん制は自殺行為であることを認識していた。チャーリア国にとってアレキサンダー国は、自分たちを母国から追い出した憎き相手であり、到底国家として容認できる相手ではないということも分かっている。軍部の中には強硬派がいて、
「今なら、アレキサンダー国をやっつけることができます」
と、自分の軍隊に自信を持っているからこそ言える発言をする幹部もいたが、シュルツは冷静だった。
「まあ、そういきり立つこともないだろう。来るべき時が来れば、私の方から命令を発する。それまで待ってはもらえないだろうか?」
と何度も説得を繰り返していた。
チャールズの方もシュルツの考えにしたがっていた。
「我が国は、まだまだこれからのできたばかりの国だということを、皆さん自覚してください。いくら軍備が整っていても、まわりは我々を新興国だとしてしか見てくれていません。つまりは、海のものとも山のものとも分からない我々を支援してくれる国が本当にあるのかどうか、それは外交努力によって、培われていくものだと思っています」
というのが、チャールズの考えで、閣議でも同様の発言を何度もしていた。
「アレキサンダー国は、本当に攻めてきますかね?」
というのは、外務大臣の意見だった。
「必ず攻めてくると思っているよ。その理由については私とシュルツ首相が分かっているつもりだが、今はまだその理由を話す時期ではない。もう少し待ってほしい」
とチャールズは言った。
外務大臣は、アクアフリーズ国からの亡命者ではない。元々アルガン国にいた政府高官だったが、チャーリア国の独立に際して、アルガン国から派遣された大臣だった。出世には違いないが、本人が左遷されたと思っているのだとすれば、この国の行く末など他人事に思われるかも知れない。
ただでさえチャーリア国はアクアフリーズ国からの亡命者とアルガン国からの派遣とでまかなっている国である。一枚岩ではなく、烏合の衆と言ってもいいのではないだろうか?
そのことを一番身に染みて感じているのがシュルツだが、今はまだ他の高官には話ができない秘密を持っていることで、不安しかなかったが、いずれクリアされればチャーリア国は、他の国に負けない一枚岩の国になれると自負していた。
「ところで、数年前にありましたアレキサンダー国との国境付近での紛争ですが、その際にアクアフリーズ国の軍隊も、一部参加していたという話ですが、首相はご存知でしたか?」
と、今度は陸軍大臣が口を開いた。
陸軍大臣は、元々アクアフリーズ国でも陸軍にいて、参謀部長をしていた。彼にとってチャーリア国の軍も、現在のアクアフリーズ国の軍も、それぞれに掌握しているだけに、もし今自分で話したことが事実であるとすれば、一番憂慮を感じているのは、当の陸軍大臣ではないだろうか。
「ああ、知っているよ。君にとっては耳が痛い話で、旨を締め付けられるようなことなのかも知れないが、彼らはアクアフリーズ国内に立てられたアレキサンダー国の傀儡政権に操られているんだ。今後彼らを解放してあげるのも我々の使命だと思っている。その時は陸軍大臣。君には十分に働いてもらうことになるから、そのつもりでいてくれたまえ」
とシュルツは答えた。
「はっ、閣下の仰せの通りでございます」
と直立不動で敬礼した陸軍大臣の気持ちは、伸びきった背筋が表していた。
そんな陸軍大臣を頼もしいと思いながら、シュルツ長官は、何度も頷いて見せた。目には涙を溜めていたのだが、その涙が心の底からのものだったのかどうか、分かる人は誰もいなかったことだろう。
三年前にアレキサンダー国と国境紛争があってから、閣議は今までに比べて頻繁に行われるようになった。その大半は国境警備の問題から始まって、外交交渉問題、そして自国の軍拡問題と、アレキサンダー国を意識した内容になっていた。
それというのも、シュルツ長官が日頃から話しているように、
「アレキサンダー国は必ずまた攻めてくる。それまでに我が国はできる限りの準備をしておかなければならない。それが外交努力であり、軍拡である。しかもこの軍拡は、自らが侵略するためのものではなく、あくまでも専守防衛が目的である」
というのが前提だった。
「専守防衛だけでいいんですか? 先制攻撃こそ、最大の防御ということもありますよ」
と他の閣僚から言われたこともあったが、
「今は専守防衛に徹する時期なんです。しかるべき時期がくれば、我が国も戦略のための軍拡を進める時期が来ると思うのですが、まずは攻めてくると分かっている相手を迎撃することで、却ってこちらが握ることができれば、そこでいい条件での和議を結ぶことができて、国際社会からも認められるとは思わないかね?」
と、シュルツ長官は言った。
長官の言葉にはそれなりの説得力があった。説法も筋が通っているし、彼の説得力は、他の閣僚にはないものだった。
作品名:ジャスティスへのレクイエム(第2部) 作家名:森本晃次